作品タイトル不明
357.教え方が上手で驚いた
みっちり午前中は勉強して、ヘンリック様とオイゲンに躾けられたユリアン。お昼前に様子を見た限りでは、真剣に取り組んでいたわね。お友達の手前、いい加減な態度は取れない。ヘンリック様が指導するから逃げられない。
歩き方、姿勢、挨拶、礼の角度……言葉遣いももちろん含まれた。意外だったのは、ヘンリック様の指導が上手なこと。きちんと理論を説明し、どうして必要なのか理解させ、実践形式で覚えさせる。手際の良さに感心してしまった。
公爵家当主だから、礼儀作法が身についていて当たり前だわ。ところが、出来る人はできない人の苦労が分からない。小さい頃から自然と覚えてきたら、身についた作法は日常になってしまうの。息の仕方を教えてくれと言われても、答えられないのと同じね。
教えているヘンリック様は、もしかして身につけるのに苦労したのかしら。コツを話す時に、ちらりとそんな話をしていた。俺もできなかった、って。
今日は文字の真似をしてお絵描きしたレオンを置いて、厨房へ向かう。サボらず礼儀作法をこなしたユリアーナは、時間があるので手伝いを申し出た。一緒に野菜の皮を剥き、綺麗にカットしていく。同じ大きさになるよう注意して、たくさんの具材を煮込んだ。
この世界では牛乳は高級品だった。日持ちしないので、買い置きはしない。ブラウンソースに似た煮込みを作り、マカロニ代わりに短くしたパスタを入れる。最後にチーズを載せて焼くだけ。
「これ、初めてだわ」
「そうね。グラタンだけれど、本当はホワイトソースで作るの。今日は牛乳がないから、色違いよ」
味も違うけれど、雰囲気は似ている。そう思ったのに、焼き上がりを見て「これ、焼きスパゲティだわ」と苦笑いが浮かんだ。
「おかぁしゃま、も、いい?」
厨房にいる時は、危ないから来てはダメよ。そう伝えておいたが、我慢できなかったようだ。エルヴィンと手を繋いだレオンが、扉のところでそわそわしている。
包丁は洗って片付けたし、オーブンに触らなければ平気ね。
「こちらにいらっしゃい、レオン。エルヴィンもありがとう」
「いいえ。料理は僕とユリアーナとで運びますね、姉上」
お願いして、レオンを抱き上げた。お出かけしないので、化粧をしていない。不思議そうに頬に触れたレオンが笑った。
「しゅべしゅべぇ」
「あら、ありがとう。褒められちゃったわ」
すべすべだなんて、嬉しい。そう伝えたら、大喜びのレオンがずっと「しゅべしゅべ」を繰り返した。頬を擦り寄せたり、手で触れたり。可愛い悪戯を仕掛けてくる。食堂へ入れば、大きなグラタン皿が三つ。取り分けて食べたけれど、レオンは熱いのが平気みたい。
はふはふと、頬を両手で包んで食べた。猫舌ではなさそう?