作品タイトル不明
356.もうお客様じゃないのよ
朝食を食べ始めてから、あれが足りない、これも必要……と席を立つ。ほとんどはエルヴィンが手伝ってくれた。お父様はどこに何があるか分からず、申し訳なさそうに座っている。それが普通なのよ。
「俺も手伝えたらよかったんですが」
オイゲンが肩を落とすも、私はけろりと返した。
「手伝わなくていいのよ。知ってる人、できる人がやればいいの。あなたは他の部分で助けて頂戴」
「あ、そっちか」
ヘンリック様が驚いた顔で呟く。首を傾げて尋ねれば、お客様だから手伝わなくていいと受け取ったらしい。後半のセリフに、驚いて声が漏れたのだと。
「嫌ですわ、もう お(・) 客(・) 様(・) ではないでしょうに」
「おちゃくちゃま」
「うん、惜しい。お客様よ、あーんして。レオン」
素直に口を開けるレオンに、チーズを載せたパンを食べさせる。せっかく熱々で用意したけれど、子供は火傷防止で冷ましたチーズを食べることになった。次はバターの方がいいかも。日持ちするチーズは、貧乏な実家でよく食べていたの。だから懐かしくて、たくさん用意してしまったわ。
ユリアーナとユリアンは、はふはふ言いながら食べたばかり。レオンが食べられる温かいチーズ料理……グラタン? でも火傷するし、ホワイトソースは大変だし。昼食のメニューを考えながら、卵も食べさせた。
塩と砂糖を間違えるような初歩的な失敗はなく、すべてがそれなりに美味しい。
「美味しい、迷惑でなければたまに作ってくれたら……嬉しいが」
「料理人にたくさん休みをあげなくてはいけませんね」
彼らが仕事をしている時は、邪魔をしたくない。素人がうろうろしたら迷惑だもの。あまり私が作ると、料理が美味しくないと勘違いさせそうだわ。微笑んで、時々ね……と釘を刺した。
「お姉様、これ……作り方を教えて」
「いいわよ」
ユリアーナは、スープが気に入ったみたい。離れの食事も、本邸から運ぶし……料理をする機会も少ないわね。貴族令嬢でお菓子作りをする子はいても、料理はなかなか。前世と違い、花嫁修行にも含まれない。
それでも、知っておいて損をすることはなかった。なんでも取り組み、苦手意識を消しておく。どんな場面で役立つか分からないもの。
「リア姉様、このチーズまだある? お昼も食べたい」
「ユリアンは礼儀作法をきちっとしたら、チーズ入りの料理を用意してあげるわ。午前中は真剣にやりなさい」
「ならば、俺が教えよう」
「助かります」
どうやらお仕事は休みなのね。ヘンリック様が名乗り出たので、逃げられないユリアンが額を押さえて唸る。その肩をオイゲンがぽんと叩いた。
「安心しろ、俺も教えてやれるぞ」
そうじゃない。ユリアンの独り言は、聞かなかったことにされた。