作品タイトル不明
351.気を失いそうよ
今日はマナーは問わない。叱らないことにした。もちろん、あまり逸脱した行為があれば、それは別だけれど。くるくると回るレオンは、楽しそうな歓声を上げる。笑顔があちこちで見られ、私も嬉しくなった。
「おかぁしゃま、これ! おいち!」
美味しいから一緒に食べようと誘うレオンは、両手に焼き菓子を持っていた。私に一つ差し出し、もう一つをヘンリック様へ渡す。目を見開いたヘンリック様は、すぐに笑顔で受け取った。
「ありがとう、レオン。とても嬉しい」
「うん」
私のお礼の後にヘンリック様が続き、レオンは笑顔で走っていった。転ばないといいけれど。多くの侍女や侍従も参加し、皆で輪になって踊った。お菓子を口にするヘンリック様を誘い、一緒に歩き出す。ベルントと手を繋いでいるリリーに話しかけた。
「ここに入れて頂戴」
「奥様?! もちろんです」
リリーが手を解き、私と繋いだ。ヘンリック様はベルントの手を取り、困惑顔になる。知らないダンスは困るわよね。演奏される曲はゆったりした曲が多く、左右へステップを踏んでその場で回ったり、体を揺らして前後に往復したり。
「ヘンリック様、私を回して」
くるりと回った私を、さっと支える。社交で踊る際のステップを応用できると気づいた彼は、その後はすんなり溶け込んだ。ずっと楽しそうに笑っていて、レオンが走ってきて私達の間に入る。
ユリアーナはオイゲンの後、エルヴィンやお父様とも踊ったのね。疲れて休んでいた。輪になって大きく回り始めた頃、彼女も合流する。輪の中央へ集まって、乾杯のように腕を振り上げた。ここで一休みよ。
「皆も食べて頂戴」
使用人達にも自由に食べることを許可し、フランクとイルゼを呼んだ。この場に参加していない、下級使用人にも祝いの料理を届けるよう頼む。洗濯や掃除、門番、庭師など。この屋敷を維持するすべての人に、誕生日を祝ってもらいたい。
この屋敷に勤めてよかった。美味しいものを食べて、そう感じてほしかった。驚いた顔をしたフランクと対照的に、イルゼはすぐに笑顔で頷いた。警護に配置された騎士も、見えない場所で仕事をしている使用人すべてが対象だ。
「アマーリア、こちらへ」
「何かしら」
手招きされて、夫に歩み寄る。頭一つ大きいヘンリック様は、やや緊張した面持ちだった。彼の緊張がうつったのか、私も息を詰める。
「アマーリア、俺は君を愛している」
膝を突いて、ヘンリック様は私を見上げた。私の指先を捧げ持った彼は、ゆっくりと両手で包む。黒髪が艶やかに光を反射し、まるで宝石のよう。美しい青い瞳に囚われて、温かな指先から体温が同化していく。
「レオンの母親として愛情を注ぐ君は、俺も一緒に救ってくれた。シュミット伯爵家の皆や君と家族になれて……本当に嬉しい」
感動と興奮で、くらりと眩暈がした。どうしましょう、気を失いそうよ。