作品タイトル不明
350.音楽と笑顔のお誕生日会
「うわぁ、すごい!」
ユリアンの大声が響き、ユリアーナも感動したように手で口元を覆った。
「綺麗、それに美味しそう」
すでに並べられた料理は、冷めても美味しいものを選んだ。ハムや卵を挟んだパン、色鮮やかな果物を使ったお菓子、果汁を絞ったジュースやお茶。食器も普段と違う柄を用意してもらった。
特別感のある食器とカトラリーに加え、椅子も交換した。白ではなく刺繍が入ったパステルカラーのテーブルクロスも、カーテンの色さえ変えた。以前のお茶会で見た広間の装飾と、全然違うはずよ。
「お姉様、今日は何があるの?」
ユリアーナの質問に、満面の笑みで答えた。
「お誕生日会よ。レオン、エルヴィン、ユリアン、ユリアーナ。そしてオイゲンも! 皆のお誕生日をまとめて祝うのよ……それと、ヘンリック様」
最後に呼びかけられたヘンリック様は、私を見つめて小首を傾げた。その澄ました顔、どんな感情を浮かべるのかしら。
「あなたのお誕生日も、祝わせてくださいね」
「俺の?」
目を見開き、ぽつりと呟く。口元が緩んで、目が細められ……嬉しそうに微笑んだ。柔らかな表情に、見ているこちらが幸せになるわ。
「おかぁしゃま、たん、び? なぁに?」
誕生日が理解できず、一緒に喜べないレオンの黒髪を撫でる。手を離したため、レオンが足にしがみつく。スカートの上からがしっと掴んだレオンは、私を見上げてきた。顔や性格はもちろん、仕草一つも可愛いわ。
「お誕生日よ。生まれてきてくれて、私と一緒にいてくれてありがとう、をするの」
「ぼくも! あぃがと、すゆね!」
大喜びで声を上げるレオンを、エルヴィンが迎えにきた。手を繋いで、一緒にお菓子を取りに行こうと誘う。私が頷くと、レオンは元気よくテーブルへ向かった。
「アマーリア、君は? 祝わないのか」
「……ふふっ、女性は歳を取りたくない生き物ですのよ」
すっかり忘れていただけ。でも、もっともらしい言い訳をして逃れた。ヘンリック様の耳がほんのり赤い。目も潤んでいるから、感動してくれたのね。よかったわ。
過去に聞いた話から判断して、ヘンリック様もお祝いをした経験がないのでは? と思ったのよ。だから、レオンのお誕生日も失念してしまう。一人ずつ祝うのもいいけれど、一緒に大きくお祭りのようにしても楽しいわ。もう少し大人になれば、一人ずつ祝った方がいいけれど。
「きゃっ! ちょっと、ユリアン。気をつけてよ」
「あ、悪い」
ユリアーナにジュースがかかりそうになったの? 気づいたベルントが間に入り、コップを支えてくれたようだ。フランクとイルゼに、私は笑顔で手を振った。これが合図よ!
「皆で一緒に祝いましょう! さあ、目一杯楽しんで」
オイゲンがユリアーナをダンスに誘い、ユリアンがピアノを弾く。エルヴィンもバイオリンで音を添えた。二人とも、知らない間に上達しているわ。
フランクとイルゼもダンスに加わり、恭しく誘うヘンリック様の手を取った。正式なワルツではなく、思い思いに体を揺らすだけ。驚いたことに、マーサがお父様を連れ出し、リリーも加わってベルントも引っ張り出された。
他の侍女や侍従も踊り始め、弾き疲れたユリアンが音を上げるまで。意外なことにオイゲンはピアノも上手で、途中から引き継いでくれた。お陰で音楽と笑い声の絶えない、楽しい時間を過ごせたわ。