作品タイトル不明
346.楽しい仕掛けは明日決行よ
ヘンリック様の休日に合わせ、準備を進めた。フランクやイルゼを含めた使用人達は、子供達に一切気づかせない。素知らぬ顔で整えてくれた。綺麗に飾りつけた広間、美しい食器、明日は美味しい料理も並ぶ。プレゼントを積んだ一角はまるで前世のクリスマスのようだった。
この際だから似せてしまえと、庭師のハンスにツリーも用意してもらったの。お陰で、立派なクリスマス風景が再現できた。誕生日会だから、クリスマスではないし……この世界にキリスト教はないけれど。高い天井まで届かない木は小さな白い花を咲かせていた。見上げる高さの木を屋内に飾る習慣はない。大きな鉢植えは屋外用の新品で用意された。
フランクは「これはこれでいいかもしれませんな」と呟く。もしかしたら、この屋敷の広間に常設するのかしら。大きな窓から光が入るし、小さい天窓もあって明るい。特に問題はなさそう。
「小さなお花の鉢を並べても素敵ね」
壁際は花瓶で華やかな分、鉢まわりが寂しいの。フランクはすぐにハンスを呼び、花鉢を用意させた。色鮮やかな花弁が目を引くわ。
前世の知恵を使って、リボンに似た紙テープを作った。木から向かいの壁まで飾り、テーブルにも飾る。紙を束ねた造花は、侍女が空き時間に用意してくれた。
お礼を言ったら、逆にお礼を返されてしまったわ。この紙の花飾りを作る間は、ゆっくり休めたそうよ。ふふっ、使用人のお茶休憩を義務付けようかしら。
壁際には、本物の花が咲き誇る。これはハンスが用意したの。ヘンリック様の指示と聞いて、本当に嬉しかった。出会った当初は花を愛でる人だと知らなかったから。温室のお茶会でもあまり興味を示さなかった。彼が花を愛でたのは、王宮の部屋から薔薇園を見た時からだと思う。
経験や体験が増えるほど、ヘンリック様は輝きを増すのね。与えられなかった感情を、いま取り戻している。部屋に飾られた花はバランスよく、彩りよく並んでいた。
あの人が突然、突拍子もないことを始めても、私はきっと受け止めるでしょう。レオンが悪戯をする年齢になるように、ヘンリック様も成長した。彼の中の子供は、愛情を求めて手を伸ばす。その手を握り返せる人でなければ、ヘンリック様は倒れてしまう。
明日、子供達の誕生日をまとめて祝う。その中に、ヘンリック様も含めて、一緒に祝うつもりだった。お父様やフランクには相談したわ。イルゼが侍女を巻き込み、ベルントや侍従も協力してくれる。仕掛ける側だと思っているけれど、ヘンリック様も仕掛けられる側なの。驚く顔が早く見たいわ。
「奥様、こちらはいかがでしょう」
「そうね……お料理が載るから、この飾りは位置を変えましょうか」
飾りの花が、お料理を隠してしまう。テーブルの高さは変えられないが、レオンが食べたい物を自由に選べるように、踏み台も用意した。リリーと服の打ち合わせを進め、侍女達と手順を確認する。
「決行は昼食前、合図したらすぐに動いて頂戴」
「「「はい」」」
キレのいい返事に頷き、用意したお揃い衣装を眺めた。楽しみだわ。