軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345. 猫が懐くように人も変化する

「おかぁしゃま! あい、ぼくのて……」

噛まれたか、引っ掻かれたか。それもまたお勉強よね。酷いケガでなければいいけれど。駆け込んできたレオンの興奮した声に振り返る。朝食後、これから勉強部屋に移動する予定だけれど。

「なぇた」

……舐めた? あのアイが? 警戒心の強い母猫が、レオンを認めたのかしら。ここだよと指差す先は、傷もなく綺麗だ。レオンに手を引かれて、猫部屋へ向かった。二重扉をくぐり、日向ぼっこする猫達の手前で止まる。レオンは姿勢を低くして近づき、母猫アイへ手を伸ばした。

以前ハンスに教えてもらった通り、手のひらを上にして下から。猫の視線より下がいいんですって。くんくんと指先の匂いを嗅ぎ、アイはすりりと頬を寄せた。完全に飼い猫の仕草だわ。部屋にいた双子も、嬉しそうに笑顔で見守った。

ここ数日、忙しくて猫達の世話を弟妹やレオンに任せていた。その間に何があったのか。母猫が警戒を解いたことで、子猫達も遠慮なく甘えてくる。私の足首に、すり寄ったのは白猫のシロだった。元々、物怖じしない子だけれど、さらに警戒心が薄くなっている。

スカートの中でごろんと寝転がり、くねくねと背中を擦り付けてきた。座って抱き上げても、母猫アイは見ているだけ。毎日餌とお水をもらい、綺麗なトイレ砂を使う生活は、彼女にとって安心な環境だろう。子猫達の餌の心配はいらないし、危険な動物に襲われることもない。

声にならない声で、にゃーと鳴いたアイは、大きな欠伸をしてから前足を畳んで目を閉じる。座ってサビーネを膝に乗せるユリアンと、その隣でミアの背を撫でるユリアーナ。今日の猫当番はこの二人みたい。

「お勉強の時間だっけ? いくぞ、ユリアーナ」

「わかってるわよ。あと少し」

ユリアーナは名残惜しそうに三毛の子猫を撫でた。立ち上がると、きょとんとした顔で見上げてくる。その子猫の表情は「どうしてやめるの?」と尋ねているようで、座ってもう一度撫でたくなるわ。でも時間だから、伸ばしかけた手を握り込んでユリアーナは背を向けた。

お勉強が終わって、時間があれば猫と触れ合えばいいわ。レオンはアイとの触れ合いを、一生懸命説明してくれる。順番が混乱しているようだけれど、可愛いから問題なし。手からご飯を食べたこと、撫でたら耳がぺたんとしたこと。柔らかな毛が気持ちいいことも、レオンは必死に話し続けた。

言葉が上手になってきている。発音が整い始め、ゆっくり話すときは滑舌もよくなった。ご機嫌のレオンは、勉強部屋で私の弟妹と机を並べる。元気に文字を真似し始めた。まだ早い、そう思ったけれど……興味を持っているのにやめさせるのも違う気がして。

そういえば、兄や姉がいる子は真似をして、習い事を器用にこなすわね。いい刺激になっているようで良かった。エルヴィンが見本を書いたので、それを横目にクレヨンで頑張る。レオンにとってはお絵描きの一環かもしれない。

「でぃた!」

お父様の授業の声を遮って、大声を上げるのは……注意しておきましょう。