作品タイトル不明
344.それは嫉妬なのね
お茶会は大成功。ユリアンはローレンツ様と仲良くなり、オイゲンやエルヴィンもカールハインツ様と楽しく過ごした。子供達はまた遊ぶ約束を交わし、笑顔で手を振る。
お父様も最後は打ち解けていた。穏やかないつもの雰囲気で、マルレーネ様と子供の悪戯を話題に笑い合っていたわ。ヘンリック様は始終笑みを浮かべて、時々駆け寄るレオンの相手をする。白い花を摘んだからあげる、とか。これを持って帰る、とか。
庭で見つけた虫や花を、たくさん運んできたわ。花は持ち帰ったけれど、蟻は置いていくように話した。家族や仲間がいるのに、連れて帰れないのよ。真剣に話を聞いて、レオンは蟻を地面に戻した。その後、ポケットからカナブンらしき虫を取り出し、これもまた花の間に置く。
危なかったわ。まさかポケットにも隠し持っていたなんて。驚いた私の前で、レオンは両手を出して「ないない」と口にした。これで終わりみたいね。
「手を拭いてね」
「あい」
両手を差し出すので、濡れたタオルを渡して手を引いた。もう自分で拭けるはずよ。なんでもしてあげたら、何もできなくなってしまう。きょとんとした後、レオンは不器用に手を拭き始めた。普段私がするように、指を一本ずつ拭いているから、たくさん褒める。
「じょぉず?」
「ええ、とても上手よ。すごく可愛いわ」
ぷくっと頬が膨らんだので、言い直した。
「それにカッコよくて見惚れちゃう」
嬉しそうに笑顔を振り撒く天使は、タオルをテーブルの端に置いた。マーサがさっと片付ける。ご挨拶を終えて、馬車に乗り込んだ。ユリアーナの淑女教育は、有名なシェンデル侯爵夫人を紹介してもらえた。
ご機嫌のレオンは、馬車の中で膝によじ登った。そのまま私の胸に頭を預け、うとうとと眠り始める。疲れちゃったみたいね。
「正直、羨ましいな」
向かいのヘンリック様の呟きに、膝で眠るレオンの頭を見下ろす。父親譲りの黒髪を持つ幼子に、嫉妬? 言葉にするとおかしくて、頬が緩んだ。
「レオンは子供ですよ」
「でも君の膝を占領している。俺から見れば勝者だ」
その例えは面白い。さしずめ、戦利品は私の膝かしら? レオンの髪に触れていた手を伸ばせば、ヘンリック様が指先を掴む。手を繋ぐのとは違う形だけれど、彼の唇は弧を描いた。
「ずっと触れていたい」
「そう思ってくれて嬉しいわ」
同じ気持ちかと問われたら、まだ難しい。うまく言葉にできないけれど、好きなのよ。嫌いじゃないのに、どうしても照れてしまうの。少しずつ距離を詰めるから、待っていてほしい。
「急ぐ気はない。最初に君を突き放したのは俺だから、な」
「あと少しだけ、時間をくださいね」
止まった馬車から先に降りたヘンリック様へ、レオンを手渡した。ぐっすり眠るレオンを見るヘンリック様の目は、優しく穏やかだ。
すっかり父親らしくなった彼の後ろを、私はベルントの手を借りて歩いた。それが気に入らない、俺がエスコートしたかったと寝室で愚痴る夫に、私は声を立てて笑ってしまった。