作品タイトル不明
342.友人を作るのに身分は不要
ご挨拶を交わし、リリーに運ばせた手土産を差し出す。人参のケーキが人気だったので、同じものを。追加で南瓜プリンも作ってもらった。蒸して作るから、簡単だったけれど……難しかったのがカラメルだ。前世で食べたことはあるし、材料も知っている。でも作った経験はなかった。
熱いカラメルにお湯を入れないと固まってしまう。その知識を頼りに試行錯誤して……八回目に成功した。あんなに焦がすなんて知らなかった。でも考えてみたら、焦げた色をしているんだもの。焦がすのが当然だった。
プリンは氷を入れた大皿に並べてきたけれど、もう一度冷やしてもらうことになった。リリーがプリンに同行する。貴族からの差し入れは、毒や異物の混入を防ぐため、差し入れた貴族家の使用人が目を光らせるらしい。
王侯貴族は冤罪一つで命どころか、一族の運命まで決まるから。そう考えたら当然かもしれない。政敵の手先がいたら困る。その辺は私が口出しする分野ではないので、完全に任せた。
ルイーゼ様と手を繋いだレオンには、マーサがついて行く。前世の子育てと一番違う部分はここね。貴族夫人は一日中子供の世話をしない。一番大切な仕事は、家のための社交だった。子供に寂しい思いをさせてしまうけれど、育児ノイローゼは減る。それに寝不足も心配なかった。
保育園が家にあるようなものだ。育児の手が足りた状態は、兄弟姉妹を増やす一因でもあった。女の子はお嫁に行くし、男の子は独立して役職を持つ。家の権威や勢力を伸ばすのに、子沢山は都合が良いのでしょう。
「アマーリア夫人、我が侭を叶えてくれてありがとう。礼を言う」
「いいえ、私こそ……家族を呼んでいただいて嬉しい限りですわ」
カールハインツ様とローレンツ様は、年頃の近い子と遊ぶのが苦手みたいね。どう誘ったらいいのか、困っている。嬉しいのに、触れ合い方を知らない。
立ち止まった二人に、遠慮のないユリアンが手を伸ばした。
「一緒にゲームでもしましょう。それとも模擬戦? いっそ追いかけっこでもいいかな。この温室は広いじゃん」
誘い方は許容範囲として、話し方がまるで平民よ。あれほど叩き込んだのに、まったく身についていなかった。実践できなければ意味がないのに。あんなに教えたのよ。苦労を思い出し額を押さえた私は、マルレーネ様に詫びた。彼女は笑顔でさらりと流す。
「元気でいいと思うわ。上下関係なく遊ぶ友人が欲しいと願ったのは、あの子達自身だから。これでいいの」
ヘンリック様に促されて顔を上げると、ローレンツ様がユリアンの手を取った。おずおずとカールハインツ様が続く。オイゲンやエルヴィンも加わり、賑やかに離れていった。
「……お父様、お座りになって」
立ち尽くすお父様に気付き、席を勧めた。王太后陛下の前だぞ、と緊張した口調のお父様は、がちがちに固まったまま礼をして座る。私の隣に座ったヘンリック様が、緊張を解そうと話しかけた。
「誠実そうなお父上ね。アマーリア夫人の原点を見た気分よ」
ふふっと笑い合い、テーブルに用意されたお茶を楽しむ。侍女達は声の聞こえない距離に下げ、気の置けないお茶会が始まった。