作品タイトル不明
341.休日は王宮の温室へ
カールハインツ様の治世は安定している。ヘンリック様が政治面を補い、外交はマルレーネ様が担当した。先代の時と同じに見えるけれど、決定的に違う部分がある。王自身の覚悟と姿勢よ。
前向きに努力する若き王の姿に、侮る者より応援する人の方が多いの。貴族だけでなく使用人も、カールハインツ様が快適に過ごせるよう、仕事に集中できるようサポートした。まだ遊んで過ごせる年齢の子が、こんなに必死で頑張っているんだもの。同年代の子を持つ親世代は、手助けを始めた。
側近候補が数人、カールハインツ様の仕事のお手伝いを始めたと聞く。やはり政務を手伝うとなれば、嫡子以外の年上ばかり。息抜きが必要よね。王族の側近は友人や幼馴染みを兼ねるけれど、今回は異例の形だった。そもそも、そういった学友を置いていなかったのよ。
これは先代王の手落ち……いえ、嫌がらせね。ルイーゼ様を可愛がるあまり、彼女を手放したくなかった。嫁に出さずに済む方法として、ルイーゼ様の夫を婿にとって王に据える計画を立てたみたい。
表立っての学友や側近がおらず、今になって有能な子を集めた。でも、仕事上の関係になってしまう。だから、身分関係なく対等に話したり遊べる人間関係を望んだ。カールハインツ様の気持ちも理解できるし、マルレーネ様の心配もわかるわ。
馬車に揺られて到着した王宮で、今日はローレンツ様の出迎えを受けた。ヘンリック様はエスコート役を譲らないので、ユリアーナがその手を取る。王弟殿下になったローレンツ様は、嬉しそうだった。ムスッとしているのはユリアン、おろおろするお父様とエルヴィン。
長男だからかしら、エルヴィンはお父様にそっくりね。性格や立ち振る舞いだけでなく、最近は癖も同じなの。困った時にぽりぽりと指で耳の後ろを掻く癖よ。何度注意しても直らないんだから。
「今日は一日一緒にいられると聞いて、兄上……陛下も喜んでおられた」
廊下なので、侍女や侍従が行き交っている。使用人の耳を気にして、陛下と言い直したローレンツ様は、廊下を左へ曲がった。先日と違う道だ。でも私は知っている。行き先は温室ね。
ヘンリック様も気づいたようで、間で手を繋ぐレオンに視線を向ける。今日の服は、水色のシャツに黒いズボン。汚れが目立つけれど安心して。付き従うマーサとリリーに着替えを持たせたわ。
私とヘンリック様に片手ずつ預け、レオンはブランコをしながら進む。時々立って歩き、またぶら下がる繰り返しだった。王宮内でもマイペースで、大物感があるわ。ヘンリック様が注意しないのだから、無礼には当たらないのでしょう。
「あ! るぅだ!」
レオンが声を上げる。ガラス製の温室の扉に、ルイーゼ様の姿が見えた。両手を振ってぴょんぴょん跳ねる姿に、微笑ましい気分で小さく手を振り返す。両手が塞がっているレオンは解くか迷って、そのままを選んだ。あと少しだもの。近くに行ったら手を離して、走っていく背中を見守る……なんだか、切ないわね。