作品タイトル不明
340.そんなこと願ってはいけないのに
毎日世話をすれば、猫だって懐いてくれる。それは犬と違い、べったりではないけれど。距離が縮まってきた。近くで眠ったり、触らせたりしてくれる。
「ちゃび、ちぉ……あい!」
サビと白、母猫のアイが一緒に眠っている。三毛が見当たらないと思ったら、母猫の陰にいた。同じような柄だから、同化しちゃったのね。見えなかったわ。
「ミアもいるわよ」
別荘の猫と同じ名前、そう気づいたのはユリアンだ。皆もすっかり忘れていた。どこかで聞いた名前だな? と思っても、猫によく付けそう……と流された。一緒に暮らすわけじゃないし、柄も違うから問題なし。あっさりと現状維持が決まる。
後日、別の猫でもミアがいると判明。ある侍女の実家にいるらしいわ。柄は白と黒で……この世界ではブチと呼ばれる。でも話の感じでは、ハチワレだと思うわ。猫にミアの名付けは、前世のタマみたいなものかしら。
家具で爪を研ぐ前に、と庭師のハンスが爪とぎを作った。藁を編んだゴザに似たシートを、四角い板に打ちつけたの。オシャレと程遠い見た目と裏腹に、猫達は大喜びだった。爪を研ぎ、頬を擦り寄せ、体を押し付ける。
ハンスは予備を作ってくれたが、猫達が取り合いをするので複数設置となった。今後も必須アイテムになりそう。お陰で今のところ、家具に大きな被害はない。追加報酬を払うと言ったら、孫の教育に使うんですって。素敵な使い道ね。
猫達は日々屋敷に慣れて、最近では人が入ってきても熟睡して起きない時があるほど。安心して暮らしてくれるなら、それが一番だわ。窓から見える温室も、かなり完成が近づいた。作ったらマルレーネ様をご招待するつもりだったけれど、その前に皆で王家に顔を出そうかしら。
手紙を書いてマルレーネ様に予定を伺う。ヘンリック様以外、私達の都合は変更が容易だもの。二日後には返信があり、希望する予定日が三つ書かれていた。幸い、ヘンリック様の休日が入っていたので、その日に決めて手紙を送る。
あ、オイゲンのことを書き忘れたわ。でも連れて行きましょう。それと、今回はかぼちゃのプリンもどうかしら。予定を立てて、全員に連絡した。
「おかぁしゃま、これ!」
この間ルイーゼ様と遊んでから、レオンがスムーズに話すようになった。こんなに一気に直ってしまうのね。以前が懐かしく思えてくる。成長が遅いと不安になるけれど、早過ぎても怖くなった。手が離れるのは、もっと遅くていいの。
「みて!」
興奮した様子で差し出した手のひらに、小さな虫が乗っていた。てんとう虫? 高い場所を探してうろうろする姿に、ふっと笑う。レオンが指を立てると、するすると登った。頂上で羽を広げ、ふわりと飛びたつ。
「しゅごいでちょ」
ふふっ。誇る姿が微笑ましい。同時にまだ言葉が乱れる様子に、安堵が込み上げた。私って悪い母親ね。あなたに幼いままでいてほしいなんて……願ってはいけないのよ。