軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

339.なぜ床に這いつくばっているの?

屋敷へ戻ったら、なぜか皆が床に伏せていた。いえ、出迎えはあったの。でも……お父様を始めとした十数人が、床に這いつくばっている。

「お父様、これは……」

「ああ、こんな格好ですまない。おかえり……子猫が一匹逃げてしまって」

「まぁ」

驚いて見回すが、当然すぐ見つかる場所にはいなかった。いつから探しているのか尋ねたら、逃げたのは数分前。馬車の音が聞こえて、部屋を出ようとした際に……交互に開け閉めするルールを破ったらしい。

なんと、やらかしたのはお父様だった。普段しっかりしているのに、困った人ね。ドレスなので床に膝をつくのは、後で叱られそう。振り返って視線で問えば、フランクが首を横に振った。やっぱりそうよね。

「着替えてから手伝います」

「おかぁしゃま、ちゃび!」

ちゃび? 不思議な単語に首を傾げるも、床に座り込んだレオンは棚を指差す。飾り棚は廊下の壁際に置かれ、絵画の隙間を埋めるように花瓶があった。下部分が透かし細工になっており、中に香炉を入れられる仕組みだ。説明する侍女に頷き、ハンカチを敷いた。

「これを」

ヘンリック様は上着を脱ぎ、屈んだ私の上に掛ける。フランクやベルントも、同様に振る舞った。一応目隠しかしら。万が一にもスカートが破れたり、足が見えたりしないように? お礼を言って、レオンの近くで視線の高さを合わせた。

きらりと何かが光る。

「っ! ……いたわ」

大声が出そうになり、自分の手で口を覆う。それから小声で子猫発見の連絡をした。伏せて探していた侍女達が回り込み、お父様も這って近づく。俺がやると前に乗り出したのは、ユリアンだった。執事ベルントは、花瓶をそっと後ろへ渡す。受け取った侍女が忍び足で離れた。

子猫に察知されないよう、ゆっくり。静かに動くことを心がけ、妙な緊張感が廊下を支配する。緊張で喉が渇き、ごくりと喉を鳴らした。目配せで合図を送り合い、ベルントの手が飾り棚に掛かる。

持ち上げた瞬間、毛玉が飛び出した。暗い物陰に隠れられると、迷彩効果でサビ猫は見えづらい。お父様が捕まえようと伸ばした腕を踏み台に飛び、フランクが抱えようとするも肩を蹴って向きを変えた。空を舞う猫を、ヘンリック様の手がひょいっと掴む。

「え?」

「うわぁ!」

「ちょ……いてぇ」

様々な声が猫を追いかける。困惑顔のヘンリック様は、捕まえた子猫に手を引っ掻かれた。幸いなことに手袋の上なので、ケガはないようだけれど。痛いの声の主は、ユリアンだった。掴もうと飛びついて、勢い余ったのね。壁に頭をぶつけたみたい。

「ありがとうございます。助かった……逃げてしまったかと思ったぞ」

お父様はヘンリック様からザビーネを受け取り、首根っこを掴んだ。動けない子猫を、猫部屋へ運んでいく。私といえば……屈んで覗き込んだが、それ以降は役立たずだった。運動神経も動体視力も、いい方だと思っていたのに。

「ちゃび、とんら」

飛んだと手を叩いて喜ぶレオンは、身を起こした私の隣にぺたんと座った。下を向いたので髪型が崩れたし、ドレスの裾も汚してしまった。

侍女リリーに促され、着替えに向かいながら吹き出した。今日は楽しかったけれど、最後は散々ね。