作品タイトル不明
338.普通の会話なのに嬉しいの
帰りの見送りは部屋の中で。廊下に出たら侍女の案内があり、人目があるから。カールハインツ様も、国王陛下として振る舞わなければならない。だから、親しく過ごせるのは部屋の中だけだった。
大人は割り切って対応を変えられるけれど、レオンやルイーゼ様にはまだ無理。ボロが出ないよう、早めに別れの挨拶をする。
「アマーリア夫人、今度は……その、シュミット伯爵家も招待したいのだが」
楽しかったと、心底嬉しそうにお礼を口にしたカールハインツ様は、言いづらそうに付け足した。迷いが窺える発言を、無礼を承知で遮る。
「礼儀作法を教え込まないといけませんね。ふふっ、忙しくなりますわ」
連れてくることを前提の返事に、カールハインツ様の表情が明るくなる。ローレンツ様もはしゃいだ声を出した。
「ユリアンもだが、ユリアーナ嬢にも会いたい」
「あら、あの子ったらモテるのかしら」
猫被りが激しい子だから、外から見るとお淑やかな令嬢と思われたのかも。ユリアンと取っ組み合いの喧嘩をする妹を思い浮かべ、曖昧に微笑んで頷く。連れてきて大丈夫か、今頃不安になってきたわ。
「そんなんじゃありません」
赤い顔のローレンツ様が否定しても、信憑性が薄いわ。でも仲良く遊んで、将来は別に考えましょう。名残惜しいけれど、ご挨拶して部屋を出た。
「またね、れお」
「うん、るぅ。またね」
いつもより噛まない。滑舌が良くなったルイーゼ様に釣られたのか、私の前だと甘えてるのか。レオンは後ろに手を振りながら、歩き出す。私と手を繋いでいるからいいけれど、転んじゃうわよ。
躓いて、ようやく前を向いた。咄嗟に引っ張ったので、転ばずに済んだわ。
「もう一度、ヘンリック……お父様に挨拶して帰りましょうか」
ヘンリック様が呼び方を変えて歩み寄っているのに、私が他人行儀ではダメね。呼び直すと、レオンは元気に「あい」と返した。侍女の案内で、迷路のような廊下を抜ける。ヘンリック様の執務室をノックした。
「はい、あ! 公爵閣下、公爵夫人とご子息が……」
「もう帰るのか。馬車まで送っていこう」
お仕事の邪魔をしたのでは? と心配するより早く、部下の方が笑顔で応じた。
「閣下は帰られても平気ですよ。書類は明日でも間に合います」
「なら、言葉に甘えるとしよう」
驚いてしまう。ヘンリック様と部下の文官達は、上手に付き合えているのね。すごくいい傾向だわ。いろいろと私的な会話もしているようで、急に家族への態度が変わるのは相談した結果かも。
深く追求すると気遣いさせてしまうので、笑顔で軽い会釈をした。レオンも真似をしてぺこり。笑いながらヘンリック様が抱き上げた。すると、レオンは頭の方へ手を伸ばす。
「さっき、の! も、かい」
肩車が気に入ったらしい。すぐに叶えてくれる父の上で、レオンは嬉しそうに歓声を上げた。頭にお腹を押し当てる形で、文官達に手を振る。ここでも扉の前で見送られて歩き出した。侍女にも礼を言って帰ってもらい、家族だけで廊下を進む。
「お茶会はどうだった?」
「とても楽しかったです。次はご一緒しましょうね。それから、エルヴィン達も一緒に、と誘われました」
「陛下はご友人が少ない。仲良くなれればいいな」
ごく普通の会話なのに、すごく嬉しくて胸が高鳴った。どうしよう、もう一度好きになりそうよ。