作品タイトル不明
330.生き物の命を預かるのだから
次のお茶会は温室ができるまで延期。他家からのお誘いに関しては、一時的にすべてお断りすると決めた。家のことが最優先よ。
猫の当番は、エルヴィンの提案で決まった。年齢順に並べる。その順番で餌やり係を決めた。同じ順番で数人ずらして、世話係や掃除係を入れる。レオンから始まり、弟妹やオイゲン、私達夫婦とお父様まで。八人なので、二日か三日に一度、何らかの係が回ってくる。
「遊ぶのは別にした」
エルヴィンは、係のない日も遊べると付け足す。なかなかのアイディアだわ。もちろん、レオンの時は皆で手伝うの。きちんと役目をもらったことで、レオンの責任感が育てばいいけれど。
「猫に触る前と、触った後。両方とも手を洗ってね。生き物の命を預かるのだから、勝手に休んではダメよ」
これは徹底させる。猫同士はうつらなくても、人にうつる病気もあるから。犬を飼った経験があるオイゲンは、すぐに理解して同意した。その必要性を説明しているので、任せる。子供が自主的に行動したり、頑張ろうとしたりする場面で、大人がしゃしゃり出る必要はない。
「王家から訪問したいと連絡が入った」
「……お断りしている手前、困るわね」
お茶会や訪問を断っているのに、王族だけ受け入れるのかと言われそう。特別な存在であっても、やっぱりいい気分はしないと思う。迷っていると、ヘンリック様が思わぬ提案をした。
「ならば、俺の仕事場に差し入れを持ってきてくれ。そのまま、陛下方と顔を合わせればいい」
「そうですわね、角が立たなくていいかもしれないわ」
それに差し入れを持っていくなら、先触れも簡略化できた。十日間待たせずに済む。お手紙には切羽詰まった事情は見受けられないが、すぐに返信を出した。
寝る前に一騒ぎしたので、レオンは目が冴えてしまったようだ。ユリアンと兵隊ごっこで遊び始めた。隊列を作って部屋の中を歩き、ぴしっと敬礼する。ふふっ、可愛い兵隊さんだわ。
恒例の報告会も終わったので、各自引き上げる。離れに向かうシュミット伯爵家の背中を見つめ、ヘンリック様がぽつりと呟いた。
「見送るのは寂しいな」
「いいえ。これが正しい形です。ケンプフェルト公爵家は、嫁いだ妻に占領された――なんて、悪い噂になりますよ」
しっかり理由つきで説明し、促して寝室へ向かう。興奮して遊んだレオンは、まだ起きていそうね。
「おかぁしゃま、これ! それと、こっち!」
二冊の本を抱え、ベッドに走ってくる。転んだら危ないが、手を貸さずに見守った。先に助けたら、転び方を知らない子になってしまうから。幸い、躓くこともなく到着し、絵本をベッドの上に置いた。用意されている踏み台を使い、上手に自分もベッドに乗る。
「はぁく! これ」
あら、知らない本だわ。いつの間にか増えた絵本を手に取り、私はベッドに腰掛けた。ベッドの縁で足を揺らすレオンの前で開く。
「昔むかし、あるところに……」
描かれた猫の姿に、笑いが込み上げる。この絵本、ヘンリック様が買ったのね? どんな顔で選んだのかしら。