作品タイトル不明
329.呼び捨てで距離が縮まるかも
オイゲンも加えた八人で食事をする間も、猫の名前で盛り上がった。子供の名前に統一性を持たせるが、母猫は別でいいのでは? と思い始める。そもそも似たような響きの名前にすることで、呼んだ際に聞き分けしづらい。母猫と子猫の一匹は三毛だが、他の子猫は模様も違うのだ。
「別の名前でいいんじゃないかしら」
苦笑いしながら纏めると、賛成で満場一致した。ここからまた、新しい名前の候補が出てくる。母猫は「アイ」に決まったらしく、議論の対象から外れた。
食べ終えて、団欒の部屋に移動する。居間であり、絨毯で寛げる部屋だ。脱いだ靴を行儀良く並べ、部屋で思い思いに手足を広げた。
「白、サビ、三毛……」
白に関しては「ヴァイ」が候補に上がった。白を意味するヴァイスを短くして、母猫アイに寄せる。その案は覆され、私が口にした「シロ」が有力候補になった。響きが斬新なんですって。日本語はこの世界にないから、耳に新しい響きね。
ほぼ確定となったので、残りはサビと三毛。サビに関しては「ザビーネ」が最終候補に残った。サビ猫の響きに近いからだそうよ。ほぼ決定になったので、最後は三毛だ。これは意外にもお父様の希望が通った。「ミア」はザビーネと同じく、響きが三毛に近いから。
シロ以外はどこかのご令嬢と名前が被りそうだけれど。皆が話し合って決めたことが重要だった。ところが、思わぬ問題が現れた。
「ちぉ、にゃびぃ、にあ」
レオンがまったく発音できない。本人は気にしていないし、あと一年もしないうちに、言葉も流暢になると思う。お父様からも似たような意見が出た。
「レオン様はこの頃、かなりお喋りの量が増えてきたので、すぐに上達しますよ」
ここで、ふとヘンリック様が考え込んだ。
「義父殿が、レオンに敬称をつけるのは正しいのか?」
素直に疑問を口に出し、壁際に控えるフランクに尋ねる。一礼してから、老齢の家令は答えた。
「貴族として、地位を考えれば現状が正しいと申し上げます。家族の立場を優先されるなら、敬称は距離を生みます」
この問題はかつて私も悩んだわ。ヘンリック様が指摘するとは思わなかった。
「外で、レオンのことを呼び捨てにしたら、困るのはエルヴィン達よ」
ヘンリック様は真剣に考え、自分なりの答えを導き出した。
「俺は、義弟や義妹がそこまで愚かだとは思わない。普段はレオンと呼ぶのが家族だ。外では様をつける。または公爵令息と呼ぶ。そのくらいはできるはずだろう」
できないと思わない。その断言は、弟妹に響いたみたいね。エルヴィンが「できます」と約束し、ユリアーナは「問題ないです」と笑った。ユリアンが最後に「まあ、余裕だよね」と答え、オイゲンに注意される。
「オイゲンも、今は家族と同じでいいかしら? この子達を呼び捨て、あなたも敬称なしになるの」
私の提案に、オイゲンは忙しなく瞬いた。見ないフリをしてあげる。目が潤んだのは、喜びからでしょう?
「そうしてください! ぜひ、呼び捨てで……オイゲンでいい、です」
興奮した様子で言い切った。ティール侯爵家に戻れば、当然呼び捨てにはできない。でもこの屋敷にいる間は、お互いが納得すれば可能だった。盛り上がる中、レオンだけがきょとんとしている。
「おかぁしゃま、ぼく……わかんにゃ……」
「そうね、これからはレオンと呼んでもらえるの」
こてりと首を傾げる姿から、様の意味も理解できていないと判断した。だから違う言葉に置き換える。
「もっと仲良しになるのよ」
「なかぉし!」
嬉しそうに笑うレオンは、座ったまま上半身をぶんぶんと縦に揺らす。お尻が絨毯から浮いて落ちて……ふふっ、楽しそうだわ。
「それじゃ、猫の名前も決まったことだし……当番の順番を決めてしまいましょうか」
お父様の発言に、手早く当番表を作成した。訓練や学習の時間を参考にして、お昼寝の時間も考慮しておく。それ以外の時間は、世話係に任せればいいわね。