作品タイトル不明
328.猫の名前が決まらない
昼食の後、集まって話し合う。猫のための会議よ。決まったのは大きく三つだった。
猫は部屋から出さない。どうしても連れ出す際は、私かヘンリック様の許可が必要よ。二つ目は猫の世話は交代で行うこと。最後に猫が嫌がったら追い回さない。最低限のルールを定めた。必要があれば追加していく予定でいる。
「ルールを守れない人は、次から猫のお世話はできません。いいですね?」
「「「はい」」」
口々に返事があり、満足して頷く。でも、さらに重要案件が残っていた。猫達の名前よ。まだ決まっていないの。
「では名前を決めましょう。候補はある?」
手を挙げて発言したのは、ユリアーナだ。
「子猫は繋がりのある名前がいいと思うの。せっかく姉妹なんだもの」
「それなら母猫も同じだろ」
親子なんだから、と付け足すユリアン。響きが韻を踏んでいるとか、そういう希望かしら。
「ぼく、おっきぃ、にぇこ……あい、がいぃ」
大きい猫であるお母さんの名前が「あい」ね。
「アイ、でいいの?」
「うん。かぁいい」
由来は「かわいい」らしい。すると、エルヴィンやオイゲンも顔を突き合わせて、候補を挙げていく。
「スイ、ノイ、セイ……ユイ、あたりか」
「小さいから、チイはありかも」
「それだったらミイやニイは? 鳴き声っぽいじゃん」
「マイとか、メイも可愛いわ」
アイから始まり、一斉に「い」が語尾につく名前が並んだ。そうね、聞き間違いのない名前がいいわ。あれこれと協議する間に、レオンが眠くなったみたい。私に寄りかかる体が温かいの。
「ヘンリック様、レオンはお昼寝の時間だわ。協議して、夕食後にまた決めましょう」
「そうだな……レオン、俺とお昼寝してくれ」
「う、ん……いぃ、よお」
もう半分寝ているわね。子供達はこの後お勉強や剣術の稽古があるのだけれど、それどころじゃなさそう。興奮して名前候補を増やしていく。
「あとは任せてくれ、まとめておく」
お父様が請け負ってくれたので、丸投げしてレオンを抱き上げたヘンリック様と廊下に出た。猫の世話の順番や組み合わせも考えないといけない。あらやだ、決めることがいっぱいあるわ。
しっかり私の指先を掴んで離さない幼子の寝顔に絆され、私は大人しく寝室へ向かった。この手を振り払ってまで、急がなければならない話ではない。猫達の世話は一部の使用人が担当しているし、掃除や餌やりも問題なかった。一日二日を急ぐ状況ではない。
「ヘンリック様、下ろすのが上手になりましたね」
「そうか? 起こさなくてよかった」
指を掴まれたままの私は、ロングワンピースの襟を緩めただけ。裾を上掛けの中に押し込んだ。着替えるなら、この可愛い手を解かないといけないから。ヘンリック様は上着を脱ぎ、胸元のボタンを二つ外して横になった。
「手を繋いでくれないか」
「ええ」
レオンを抱き寄せるように、上から差し出された手を繋ぐ。私より少し低い体温が、じわりと馴染んでほっとした。両手を息子と夫に預け、私は目を閉じる。幸せすぎて怖いくらいよ。