作品タイトル不明
327.猫を飼う貴族は珍しい?
猫に詳しい人は、かなり近くにいた。うちの庭師さんよ。温室を作る際のガラス張り工事をした際、猫にあっさり近づいて捕獲したらしい。職人さん達が威嚇する母猫に困っているのを、見かねて手を貸したとか。
年配の男性である庭師ハンスは、フランクに伴われて猫部屋に来た。恐縮して泣き出しそう。叱られると思ったのかしら。朝から働いていた彼は、屋敷内に入る用事はなかった。今まで、使用人が暮らす建物で寝起きし、庭の木々や花を管理してきた人だ。
「急に呼び出して、驚かせてしまったわね。安心して、悪い話ではないの」
朝食後の勉強にレオン達を送り出し、私とヘンリック様は揃って彼を出迎えた。それがいけなかったのかも。一般的に、上級使用人以外の下女や庭師が、屋敷の主人と話すことはない。顔を覚えて、挨拶で頭を下げるくらい。
怯えてしまうのも、無理はないわ。それでも猫との生活に必要なの。
「猫を飼っていた経験があるでしょう? 猫のことを教えてほしいわ。触れる際の注意事項だったり、猫の仕草の意味だったり」
聞きたいことだらけよ。他にも猫を飼った経験者を探している。元貴族だった上級使用人は、不思議とペットを飼った経験がないの。家にいて触れるのは、馬くらい。それも乗馬の時だけだった。卵を産ませる鶏がいても、使用人が世話をするから触れない。
この世界に、愛玩動物の概念がないの? 不思議になるくらいだった。逆に、平民の方が飼っているのよね。
「その……爪を研ぎやがる……研ぐので、お綺麗な家具がボロボロになりやす……それでも、飼うんですかい?」
言葉を気にして選びながら話したハンスは、心配しているのね。貴族の家にペットが少ない理由がわかったわ。爪を研いだり、臭い付けをしたり。動物は毛も生え変わるから、散らかす。お屋敷を管理する使用人は嫌がるし、抱き上げたら毛がつくから、貴族も触れないのね。
弊害ばかりを懸念し、動物と暮らす楽しさを諦めた。納得しながら、ハンスに伝える。私は絶対に猫を捨てないし、最後まで看取るつもり。我が子や弟妹に、命の大切さを覚えさせたいの。
猫が大事にされているのは感じたようで、猫部屋の中をちらちらと眺めてからハンスはもごもごと口を開いた。
「おらが知るんは、触れて面倒みる人に懐きますだ。徐々に近づいで、撫でてやったらえぇと思いやす」
「ありがとう、とても助かるわ。また助言を聞いてもいいかしら?」
「いつでも」
ヘンリック様は黙って私に任せてくれた。だが、帰ろうとしたハンスに向け、最後に口を開く。
「助かった、ハンス」
驚いたように固まる彼を、なんとかフランクが連れ出す。ぎこちなく右手と右足を一緒に出しながら、ハンスは庭へ戻って行った。途中で転ばないといいけれど。
「面倒をみる……やらせてみましょうか」
前世の記憶も総動員して、猫が嫌がったらやめるを徹底したら、できるかもしれないわ。