作品タイトル不明
325.やればできるのにやらない子
照れるエルヴィンが謙遜の言葉を口にする前に、ユリアーナが顔を覗かせた。二重扉部分は猫部屋の一割を占め、意外と広い。にもかかわらず、オイゲンが扉を開いたままにしていた。
寄りかかるように立つ彼の脇から「失礼します」と入ってくるユリアーナは、腹を上に寝転がる白い子猫に歓声を上げた。
「ユリアーナ、猫が怖がるから静かにね」
「はい、お姉様」
床にぺたんと座るレオンの隣に陣取り、視線を低くしてレオンに話しかけた。
「可愛いわね」
「うん」
ご機嫌のレオンは、再びガラスに両手を押しつけた。この季節、まだガラスは冷たいでしょう。ある程度満足したら、引き離さないと。風邪を引く心配をしながら、二人を見守った。後から駆けてきたユリアンが、大きく息を吐き出す。
「くそっ、やたらはえぇ」
「ユリアン、言葉遣いを直して頂戴。厳しい先生をつけるわよ」
「……わかりました、リア姉様」
やればできるのにサボるんだから。自由にさせ過ぎたかしら。くすくす笑い始めたオイゲンが、ユリアンの肩を掴んで引き寄せた。顔を近づけ、にやりと笑う。
「俺みたいに、痛い目に遭うぞ」
その自虐は、笑っていいのか。迷う私と違い、ユリアンは笑い飛ばした。まったく気遣うことなく、オイゲンの背中をぽんと叩く。身長差で肩に届かないのね。
「笑わせるなよ、俺はそんなミスしないって」
「わからないぞ」
気を悪くした様子はなく、オイゲンは肩を竦めた。男の子同士って、こういうところがあるのよね。きっと彼らから見ると、女の子はこれだから……と思う部分があるだろう。お互い様だけれど、理解できない仲の良さが眩しいわ。
いずれ、レオンもユリアン達とそうやって笑うのかしら。私は理解できなくて、寂しい思いをするかも。弟が二人いても理解できないんだもの。仕方ないわ。その時が来たら「寂しいから話に交ぜて」とお願いするのがいいわね。
気づけば、ガラスの前に人が鈴なりだった。走ってきた母猫が、慌てて白い子猫の首を噛んで運ぶ。遠ざけて物陰に隠れ、ちらりとこちらを窺った。部屋に入れるのは、まだ先になりそう。
「今日はここまでにしましょうか。猫が疲れちゃうわ」
口々に名残惜しいと言いながら、おやつの用意された食堂へ向かう。ユリアンとユリアーナに手を繋いでもらい、レオンは手を振りながら歩いた。
用意された果物は、美しくカットされている。子供が多いので、食べやすさを優先してくれたみたい。きちんと手を拭いて、思い思いに果物を口に入れる。レオンは大好きな苺を口に入れ、酸っぱさに顔をきゅっと顰めた。それでも好きなのよね。
くしゃっとした顔で二口目を頬張る幼子に、甘いジュースを差し出しながら笑ってしまった。