作品タイトル不明
320.悪ガキ達の見事な競演ね
ムーンハープの名前の由来は、三日月型の形状でしょうね。全体に丸いので、膝に置いて演奏しやすい。左手で支え、右手で弦を弾いた。いい音がするわ。
「これなら弾けそう」
ヘンリック様にはきちんと事情を伝えよう。いずれ弾けるようになるかもしれない。
「え? うわっ、すごい。鍵盤が三段だ」
木琴も運ばれてきた。大きいから、運搬に時間がかかったのね。オイゲンは目を輝かせ、丸い頭のついた棒で音を鳴らした。私が知っている木琴は、二段よ。前世の学校で見ただけ。それより一段多いのは、この世界特有かしら。
「弾いていいんですか?」
大喜びのオイゲンは、木琴を叩き始めた。驚くほどテンポよく、上手に弾きこなす。知っている曲だったのか、ユリアンのピアノに合わせ始めた。
「おか、しゃま! おぃたん、しゅごぉいね」
おいたん? ああ、オイゲンのことね。「た」じゃなくて「げ」だと直した方がいいかしら。でも愛称みたいで可愛いし、本人に嫌がる様子がなければ問題ないかも。
競演するように、互いにテンポをあげていく。その曲が、ジャンッと派手な音で終わった。教師の三人が拍手する。
「やるじゃん、オイゲン様」
「呼び捨てでいいって言ったろ」
「リア姉様に怒られるんだよ」
そこは叱られるにしてほしかったわ。怒るだと一方的じゃないの。仲良く笑い合う二人の横で、少し悔しそうなのがエルヴィンだ。まだ弾きこなしてついていくだけの実力がない。焦って失敗するタイプではないから、フォローはお父様に任せましょう。
オーボエを離して拍手するお父様を見て、レオンも真似した。ぱちぱちと手を叩くレオンは「しゅごぉいね」とご機嫌だ。優雅な仕草で一礼するオイゲンは、立派な貴族令息だった。明日、ハンナ様が見えても大丈夫ね。
授業を終えて、おやつを食べに移動する。食堂へ案内されたので、今日はぽろぽろ崩れるお菓子ね。予想通り、パイが出てきた。バターのいい香りがするわ。食材や食生活は豊富な世界で助かっている。
「おかぁしゃま、ぼろぼろぉ」
ボロボロって……せめてポロポロにして頂戴。ぷっと吹き出してしまい、慌てて口元を手で押さえた。車椅子のため、レオンを手招きして抱き上げる。
「奥様!」
「食べる間だけよ」
ずっと乗せるわけない。イルゼの叱責めいた呼びかけに、言い訳を返した。だって、レオンが食べづらそうなんだもの。私自身は健康なつもりなのに、動けない。ストレスが溜まった。でもレオンに癒し効果があるの。
「いい、の?」
「食べる間だけ、いいのよ」
へちゃっと嬉しそうに笑う幼子の黒髪にキスを落とした。毎日触れて抱き上げていたから、寂しいのかも。
「こうして食べたらいいわ」
パイの下に敷かれた紙ナプキンで、くるりと巻いて下の部分を畳んで差し込む。生春巻きみたいね。レオンは目を輝かせ、がぶりと噛み付いた。多少溢れたけれど、気にせずまた口を開ける。
「俺もやろ」
「え? じゃあ、僕も」
「お姉様がしたなら問題ないのよね」
賛同というより言い訳ね。口々に理由をつけて、同じように巻いて食べ始めた。あら、レオン。それは紙のナプキンよ。巻いた位置をずらして、残りを食べるよう促した。