作品タイトル不明
317.一斉に動き出したわ
翌日、ティール侯爵家から連絡があった。予定が空いている日に、息子に会いに伺いたいと。侯爵夫人のハンナ様ね。今日でも構わないと返信を出す。
お茶会で打ち解けていたから、親子の再会を邪魔する理由はないもの。元々、離れて暮らすことで、お互いに冷静になってもらう必要があっただけ。連絡があったことを話すと、オイゲン様は照れたように笑った。
「母上が、俺に会いに……」
噛み締めるように言葉を繰り返す。仲良くなった弟達の話では、どうしても嫡男であり大人しい長男を優先した。どの貴族家でも同じだけれど、ティール侯爵家はその傾向が強かったのね。
一人で放っておかれることが多く、寂しくて騒動を起こした次男を厄介者と判断してしまった。子育ては経験者の意見が大事だけれど、貴族夫人は自ら育てることがない。そのため、母親に相談しても的確なアドバイスが返ってこないのよ。
長男がちゃんと育ったから、同じ環境で次男が全く違う性格に育ったことが、理解できなかったの。大人も子供だった時期があるのに、育ってしまうと子供の気持ちがわからなくなるわ。私も気をつけないとね。
猫の部屋を改装する案が出たものの、二重扉以外は後回しにしてもらった。猫にとって安心できる場所になるまで、あまり環境を弄りたくない。二重扉も仮の扉を廊下側に設置した。猫達が慣れたら、内側に作り直すつもりよ。
「廊下にこれは……目立ちますな」
フランクが苦笑いする。屋敷の采配を任された家令としては、この不格好な扉は許せないでしょうね。仮なので、不満は呑み込んでもらった。
レオンは猫にべったりで、部屋に入り浸って寝転がっている。これはお昼寝や食事でも、出てきてくれないかしら。人の食べ物は、猫にとって危険なこともある。そう説明して食事のタイミングで連れ出しましょう。
今日は楽器の練習で、先生方も見える予定だった。ヘンリック様は仕事に出かけたけれど、ユリアンは朝からピアノに夢中だ。エルヴィンやユリアーナも練習を始め、意外なことにオイゲン様は打楽器が得意だった。
「木琴や太鼓、好きなんです」
リズミカルに叩く楽器が好きみたいね。小太鼓があったので、すぐに用意してもらった。先生方に指導を受けられると聞いて、大喜びしている。青ざめているのはユリアンね。
この頃、忙しくてピアノに触れていなかった。指が動かなくなったと大騒ぎしている。離れにピアノじゃなくても……何か鍵盤の楽器を用意しようかしら。エルヴィンはだいぶ音が出るようになった。バイオリンを離れに持ち込めたのが大きい。
同じ理由で、ユリアーナも上達していた。やはり持ち運べる楽器は強いわ。その点、私はまったく触っていないので、指が心配だった。指が切れたら痛いわよね。
楽器の音を聞きながら考え込む私に、猫部屋を出たレオンが駆けてくる。
「おかぁしゃま、ねこぉ!」
そうだったわ、レオンが名前を「ねこ」にしてしまう前に、早く考えてあげないと。