作品タイトル不明
310.猫の迎えは双子の担当
猫部屋の準備ができてからは早かった。二日後には猫の輸送準備が整ったが、ヘンリック様が休暇を取れるのが三日後。予定を合わせて、迎えに行く。私がレオンと迎えに行くつもりでいたのに、今回の過労で信用が落ちた。
もう回復したと伝えても、信じてもらえなかったの。ベッドの上を厳命したヘンリック様は、月末までこのまま過ごすよう釘を刺した。さすがに、当主の命令を無視するのはまずいわ。諦めて侍従に頼んだ。
料理長に頼んで、パイ包みや焼き菓子を用意してもらう。手土産という習慣はこの世界にもあるから、問題なく理解してもらえた。
「お姉様、安心して。私達がちゃんと受け取ってくるわ」
「ああ、任せとけ。レオン様はリア姉様を頼んだぞ」
「あい!」
ユリアーナとユリアンの双子が、猫のお迎えに同行する。いくらなんでも侍従だけは失礼よね、と考えた結果だった。ヘンリック様の仕事で、ベルントは留守になる。家令フランクは屋敷を離れられない。となれば……。
「お父様、お願いね」
向こうのご家族に失礼をしないよう、あの二人を見張って頂戴。言葉にしない懸念を察し、お父様は苦笑いした。
「任せておけ。しっかり休むのだぞ」
「ぼく、できゆ」
きりっとした顔で、レオンが主張する。
「そうね、小さな騎士様がいてくれて、とても頼もしいわ」
頭を撫でて、嬉しそうに笑うレオンに微笑み返した。本当は猫が楽しみで、一緒に迎えに行きたいのよね。私が倒れなければ、レオンも行けたのだけれど。申し訳なさで、表情が曇ったらしい。
「そんな顔をするものではない。母親の不安は、子供に影響する」
お父様に諭され、慌てて気持ちを切り替えた。猫は無事にここへ来るし、双子はお父様が監督してくれる。何も心配はいらないわ。
「ぼく、おへぁみてくゆ」
猫の部屋を見に行くのは、これで何回目かしら。指折り数えてみたけれど、六回以上なのは確かね。私は昨夜、ヘンリック様同伴で確認した。猫のために、壁へ板を打ちつけたのは驚いたわ。上下運動が好きな猫のために、机や棚を上手に配置してある。
前世のキャットタワーと違い、あくまでも家具だから傷だらけになりそう。部屋の扉に近い右側は低く、左の窓辺へ向かうにつれて家具が高くなる。まるで階段のようね。
大きな窓の前に、クッションが重なる長椅子があった。爪を研ぐ未来が見えちゃう。中古品でいいと思うのだけれど、この屋敷の古い家具は……とんでもない価格のアンティークだった。ある意味、新品の方が安いのよ。
「気をつけてね」
明日出掛ける三人に挨拶し、残るエルヴィンを手招きした。この子は大人しくて手がかからない。その分だけ我慢しているかもしれないわ。直球で尋ねたら、目を丸くした後で思わぬ返事があった。
「オイゲン様が残るから、僕も残ります。一緒に剣術の稽古をする予定です」
笑顔で答える様子に、ユリアンは心が揺れたみたい。
「え? 俺もそっちのがいいかな……でもなぁ」
うーんと考え込んだところに、レオンがぴしゃり!
「おちごと! しにゃいと、らめれしゅよ!」
「……あらまあ……」
猫を迎えに行くのが仕事。レオンに言い切られ、叱る口調に肩を竦めたユリアンは頷いた。
「そうだったな、悪い。レオン様が騎士の仕事をするんだから、俺もちゃんと連れてくる」
ふふっ、ユリアンが一本取られちゃったわね。