作品タイトル不明
309.小さな騎士様のお役目
眠気を吹き飛ばしたレオンは、猫の部屋を見たいと強請った。お昼寝の時間だけれど、ここにいても寝ないでしょうし。仕方ないとベッドから降りようとしたら叱られた。
「おかしゃま、らめ!」
降りてはいけないと押し戻され、上掛けを戻して、ぽんぽんと小さな手が叩いた。どうやら私の寝かしつけの真似みたい。可愛いのだけれど……。
「ご安心ください、奥様。私どもがお連れします」
イルゼが笑顔でレオンに手を伸ばす。抱っこするつもりの両手だが、レオンはにこにこと左手を掴んだ。そのまま歩き出すので、抱っこはお預けらしい。騎士になりきっているから、歩くのだと口にした。
「承知いたしました、若君」
残念そうなイルゼと手を繋ぎ、レオンは部屋を出た。扉が閉まると、ほっとして立ち上がる。
「今のうちに着替えを済ませましょう。それと……これも」
立ち上がらないと着替えが難しいので、監視するレオンがいない間に終わらせる。もちろんベッドメイクも同様だった。シーツを綺麗に張り直し、レオンが戻らないうちに横たわる。上掛けに潜ったタイミングで、ノックの音がした。
「どうぞ」
「おか、しゃま……おとにゃ、ちて、た?」
大人しくしていたかと問う義息子に、神妙な顔で「もちろんよ」と返した。とてとてと走るレオンは、途中でイルゼの手を離す。勢いよくベッドに飛びついた。
「レオンはきちんとイルゼを案内して、お部屋の確認ができたの? 猫を迎える準備は確かめた?」
騎士の仕事とばかり、胸を張る黒髪の天使に尋ねる。うんと頭が縦に揺れ、興奮した様子で部屋の話を始めた。ここからさほど離れていない部屋は、日当たりが良く、ふかふかの絨毯が敷かれていたとか。
猫用には贅沢だけれど、ペットも家族なのよね。それに猫が来たら、皆が入り浸る部屋になるし。頷きながら、これは必要経費と納得した。レオンは報告を終えると、ベッドによじ登った。飛び上がるように上半身を乗せるも、ずるずると落ちていく。
靴を脱がせたマーサが、そっとお尻を押して支えた。
「あんと」
振り返ってお礼を言いながら、足をジタバタしてベッドに登った。マーサが蹴られないといいけれど。足を揺らした勢いを利用し、器用にレオンがベッドに乗った。笑顔で私の隣に潜り込む。
「あら、騎士様。今日のお役目は終わりですの?」
「うん、おぁった」
予想した返事と反対に「終わった」と言い切られてしまった。くすくす笑いながら、レオンを引き寄せる。お昼寝には遅い時間だけれど、眠くなったのかしら。
「んっと……ぼく、しゃんと、でちた?」
「ええ、きちんとできていますよ」
ふふっ、欠伸しながらも気になるのね。ヘンリック様に頼まれてしまったもの。しっかり私を監視して、騎士の仕事をしないとね。クッションに寄りかかって上半身を起こした私の腹部に、顔を押し付けて眠ってしまった。可愛い天使の黒髪を撫でながら、私も欠伸をする。
あんなに寝たのに、まだ眠いだなんて……不思議ね。