作品タイトル不明
305.宴の後は寂しさが積もる
お茶会の参加者がいない広間は、がらんとして不気味な静けさがある。王侯貴族の集まりなので、部屋に荒れた様子はなかった。それなのに、器に人がいないだけで、すごく寂しい光景に見える。
侍女や下女も集まり、食器やクロスが回収された。侍従がテーブルを片付ける。あっという間に綺麗になり、床掃除が始まった。ぼんやりとその光景を見ていると、肩を叩かれる。
「アマーリア、疲れているだろう。今日は早めに休もうか」
「ええ、ありがとうございます」
仕事を休んでくれたことも、こうして気遣ってくれることも。出会ったばかりのヘンリック様に期待できないことばかり。レオンはお昼寝なしで遊んだせいか、すでに夢の中だった。一緒にユリアーナも休憩している。
エルヴィンやユリアンは元気で、オイゲン様と何やら盛り上がっていた。絨毯の部屋で頭を突き合わせて話しているため、お父様に頼んでいる。連絡もないので、特に問題はなさそう。
「もし大変なら、社交は最低限で構わないから……無理をしないでくれ」
肩を抱き寄せて歩き出したヘンリック様の言葉に、驚いて足を止める。一緒に立ち止まった夫は、へにゃりと眉尻を下げて困ったような顔をしていた。
「お言葉に甘えて。しばらくは小さな集まりだけにしようかしら」
参加するだけ、主催はしない。この屋敷に集まるとしても、数人だけの小さなお茶会なら大丈夫そう。言葉を足しながら伝えれば、ヘンリック様はほっとした様子だった。過労で倒れるほど、私は細くてか弱い女性ではないのだけれど。
心配されるのは心地よくて、胸の奥が温かくなる。お茶会も大事だけれど、ひとまず猫の引き取りをしなくては。それにオイゲン様のことも、ティール侯爵家と話し合って。ルイーゼ様はもう大丈夫そうだったし……。
こうして考えると、不思議ね。この屋敷に嫁いで、まだ季節が三つ巡っただけ。一年で四つの季節があるから、そんなに長い時間を過ごしたわけじゃないのよ。それなのに、この屋敷を「我が家」と感じる。外部の人を招けば緊張し、家族だけになったら安心した。
「レオンの様子を見て……っ」
夕食をどうするか判断しないと。そう続けるはずの言葉が途切れ、目の前が暗くなる。ぐらりと揺れた気がして、隣の腕を掴んだ。ああ、だめ……へたり込んでしまう。
「アマーリア?!」
焦った声を出すヘンリック様を見上げたつもりが、何も見えない。大丈夫よと返したつもりの唇は、きちんと伝えてくれたかしら。目を閉じているのにぐるぐると世界が回る気持ち悪さを感じ、爪が割れそうなほどヘンリック様の手を握った。
「アマーリア! 早く、誰か!」
片付けで忙しいのに、ごめんなさいね。もう無理だわ。動けなくて、ふわりと抱き上げられた逞しい腕が最後の記憶となった。