作品タイトル不明
304.温かな思いの繋がる先は
「これ、あげゆ」
ルイーゼ様の舌っ足らずは、完全に直っていなかった。可愛いから、まだこのままでいいかも。細い手首に巻いていたリボンを、隣の女の子に与える。
「ありがとぉ」
こちらの子は多少、滑舌がいいかしら。もらったピンクのリボンを手に巻いて……するりと落ちてしまう状況に首を傾げる。二人でリボンをくるくると追い回す姿は可愛い。
「あらあら。仲良くなれたのね」
マルレーネ様がリボンを掴まえると、ルイーゼ様が「あげゆ、した」と訴える。
「わかっているわ。結ぶだけよ」
柔らかく娘に言い聞かせ、きちんと頷くまで待った。幼い令嬢の手首にリボンを結ぶ。嬉しそうに笑う令嬢は、侯爵家の子らしい。年齢も同じか一つ上ぐらい? 遊び相手にちょうどいいわ。同じように思ったのか、マルレーネ様は遊ぶ二人の近くに腰掛けて見守った。
「マルレーネ様、ルイーゼ様との関係が改善しているようですね」
そう呟いた声に、隣にいたヘンリック様が反応した。じっと見つめた後、なんでもないことのように返す。
「ああ、アマーリアそっくりだな」
「似ていましたか?」
私とマルレーネ様が? 首を傾げると、きちんと向き直ったヘンリック様が指を折って数えた。
「子供であってもきちんと目を見て話す。一人の人間として扱う。納得するまで勝手に行動しない。すべて君がレオンにやってきたことだ」
なるほど。そう言われてみたら、同じような行動に思える。顔を上げると、周囲の貴族と目が合った。どうやら聞き耳を立てていたのね。なんだか恥ずかしいわ。すごく立派なことをしたように、言うんだもの。
お茶会は自由解散可能にしたため、仕事や別の約束がある人は帰っても構わない。すでに二組のご夫婦が退席した。絵画を鑑賞する人、遊ぶ子供を見守る人、趣味の話で盛り上がる人。様々な光景が目に入ってくる。お茶会は成功で良さそうね。
ふと、窓際の一角が気になった。同じピンをクラバットに刺したエルヴィンとオイゲン様が、ティール侯爵夫人と話している。オイゲン様はきちんと顔をあげ、何か話していた。頷きながら聞くハンナ様の表情は明るい。
「ハンナ様へのご挨拶は後にしましょう」
「そうだな」
相槌を打つヘンリック様が、侍従にお茶を運ばせた。座ろうと誘われ、緑のクロスがかかったテーブルへ向かう。椅子に腰掛け、ほっと一息ついた。様々な人と挨拶し、歩き回っていたので、喉が渇いている。いつもよりお茶が美味しいわ。
「アマーリア様、今日は楽しかったわ。次はぜひ我が家のお茶会にいらして。招待しますね」
パウリーネ様が笑顔で挨拶し、夫と腕を組んで踵を返す。リースフェルト公爵は、このあと仕事が入っていると聞いた。部屋の外までお見送りし、後はフランクに任せる。まだお客様がいるので、玄関までの見送りはしなかった。
「そういえば、ヴェンデルガルト様をお見かけしていなかったわ」
リースフェルト公爵令嬢の名を出せば、ちょうどお茶を飲みに腰掛けたユーリア様が教えてくれた。扇を広げて口元を覆う仕草は、「この話は内緒」と示すもの。
「ヴェンデルガルト嬢は寝込んでいるそうよ」
「体調不良でしたか、心配ですね」
「いいえ、それがね……いわゆる医者にも治せぬなんとやら、ですって」
くすくす笑うユーリア様の口調と表情から、恋の病を思い浮かべた。ローラント様が戻られてしまったから? それは腕のいい医者でもお手上げね。