作品タイトル不明
お茶会の後4
「そうだな。すまない。エリザベスに甘えてしまった。」
それは、もしエリザベスちゃんに王妃になりたい気持ちがあったとして、夫の考えで将来が変わってしまっても、エリザベスちゃんなら自分を許してくれる、と思っていたということです。
…甘えというものは時により残忍です。
過ぎれば他人の多くを搾取してしまいます。そこに意識がなければなおのことです。意識、無意識に拘らず、過ぎた甘えは忌避されて然るべきことでございます。
かと言って、甘えがなさ過ぎても良くはありません。
甘えは信頼関係を強固にするのでもありますから、甘えがないというのは孤独と孤立を生み、時には支えすら拒み潰れてしまうのです。
そして、潰れるのが自身だけならまだ良いのです。関係性や縁の続き、感情なのどのしがらみによって、他人を道連れに倒れてしまうのです。
この塩梅は相手や事柄によってかわりますから、わたくしも難しく、まだまだ常に手探りで動いております。
そして、今回のことについて一番甘えていたのはわたくしです。
この婚姻は家のことでもあります。ですのに夫一人に抱えさせてしまいました。
「今後、気をつけるよ。」
夫が反省の言葉を吐きました。
この気持ちが聞ければ良いのです。夫は口だけでなく本当に気をつけてくれる方でございます。
ですから、この話はこれで終わりにしましょう。最後にわたくしの至らなかった詫びを伝えます。
「わたくしも気がつかず、ご負担をおかけしてしまいました。」
わたくしの言葉に夫は小さく微笑み、柔らかいため息を一つ吐いてからもう一度宣言しました。
「わかった。多分もうしないし、この事で君に非はないよ。」
多分、とつけるあたりが夫の誠実なところです。
話が終わった事が夫にもわかったのでしょう。夫がベルを鳴らして使用人を呼びました。
居間にわたくしの侍女と、家の執事が入ってきて、わたくしと夫の装飾品をそれぞれ受け取り始めます。
わたくしは未だ王妃様とのお茶会の服のままですから、いつもよりもいくぶん高価な装飾品を身につけております。
本来でしたら帰宅後すぐに晩餐の服に着替え、晩餐のあとも部屋着に着替えてからここに座るべきでございます。
ですが本日は、時間の都合もあり、夫と皆様に甘えさせていただきました。
侍女は、わたくしが外した装飾品を丁寧に受け取り、一点一点の傷などを確認しながらゆっくりと、柔らかい布が張られた箱のなかに並べていきます。
ブローチを外しながらふと横を見ると、すでに外せるものを外した夫が、蒸留酒をグラスに注いでいるところでございました。
夫の脇には執事が立ち、黙ったまま夫の上着を袖畳みにしております。
そう言えば、一昨日もこの光景を目にしました。
本来、夫の身の回りの世話は執事の仕事ではありません。わが家では従僕が行っております。
しかし、この時間に夫と話したい事がある時などは、執事が話しをしながら、従僕のかわりを務めることがあります。
ですから、ここに執事がいるのはおかしい事ではありません。
ですが、今は黙っております。わたくしが気がついてないだけで、すでに二言三言のやりとりがあったのかもしれませんが、一昨日も、というのが気にかかります。
…情勢が不安定ですから、相談事が多いだけかもしれません。
わたくしが夫と執事をぼぅっと見ていたからでしょう、侍女に香袋を外すように急かされます。
その声で夫が様子をうかがうように振り向きました。
目が合うと、どうした? と表情で問うてきます。
これは良い折りと、わたくしは気になっていた事を尋ねました。
「そう言えばマークはどうしました?帰って来てから見ておりませんが。」
マークとは夫の従僕の一人です。
若くはありますが、子供の頃から長くわが家に勤めており、夫も信頼を置いている従僕です。
夜の身仕舞いも良く務めております。
わたくしの言葉に夫と使用人たちの空気が変わったのがわかりました。
何かがあったのです。