軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9◇爆塵のバーンズ

エルネイネ幻影森にエルフが住んでいることは間違いない。

だがエルフに会える者はほとんどいない。

結界魔法によってエルフの集落は隠されており、普通の手段では辿り着くことも出来ないからだ。

それどころか深い森に迷い込み、帰ることすら出来なくなった者もいるという。

そんな森の中に、バーンズ軍の野営地はあった。

「はっはっはっ! よくぞお越しくださった、グレン殿!」

背の高い魔人の男だ。

体が鍛えられているからか、美男子というより美丈夫という言葉がよく似合う。

灰色の髪をした彼こそが、『爆塵』のバーンズだ。

彼の天幕を訪ねると、椅子から立ち上がって歓迎される。

「急に同行を願い出て、悪かったな」

「水臭いことを言わないでくれ! 『炎の番』グレンスフィオール殿の力を借りられるというのだ、この作戦の成功は確実! 大歓迎だとも! しかし、部下はいいのかい?」

「ほとんどを休暇に出していてな。連れてきたのは側仕えと数名の兵士のみだ」

「そうか! まぁ貴殿だけでも一騎当千! まったく不満はないよ!」

バーンズは嬉しそうに笑っている。

「エルフの隠れ里だったか、よく見つけられたな」

「私がエルフ狩りをしているの知っているだろう? 捕まえたエルフから、別の里の話を聞き出しているのだよ! はは! 誇り高き森の民とか言っても、少し調教すれば仲間も売るというだから、耳長の誇りも程度が知れる!」

バーンズがエルフを嘲るように笑う。

耳長というのは、エルフの蔑称だ。獣人のことは獣混じりなど、魔人至上主義者には他種族を見下す言葉が多い。

そんなことを言うなら、魔人とて角人間とかになるだろうに。

「なるほど」

仲間を売らなければならぬほどに追い詰められたエルフに同情しながら、それを顔には出さず頷く。

「そうだ、グレン殿! 利益の分配はどうしようか!」

バーンズがそう切り出した。

「利益?」

「うむ、大事だろう? エルフの女奴隷は高く売れるよ。魔族にも人類にも! 私はそれで財を築いた! グレン殿は最近出費続きのようだから、私の仕事にあやかろうと声をかけたんだろう?」

なるほど、そう解釈したのか。

だからこんなに歓迎してくれたのかもしれない。

オレが黙っていると、バーンズは続ける。

「いや見事だよ実際! あのままでは、監察官や他の忠臣気取りに潰されていただろうからね! 窮地を脱する力もあるとは、さすがグレン殿! だが私には隠さなくていい。貴殿の戦いは、破壊のための破壊。蹂躙のための蹂躙。私は知っている」

かつてのグレンを正確に見抜いた者もいたようだ。

あれ演技でした、を信じる者ばかりではない。

とはいえ、バーンズは敵でないだけで、味方でもない。

少なくとも、原作では。

「好きに振る舞うのも、楽ではない」

オレの答えを聞いたバーンズは、満足そうに笑う。

「いやまったく! 私もつい最近、監察官を見つけ出して始末したばかりだよ。敵を殺し、ついでに稼ぐことの何が悪いというのか」

「そうだな」

グレンも同じことをしていたので、ここは否定しない。

監察官は殺してないけども。むしろ今、元気にオレの部下をやっているけども。

「うむ! では六対四ではどうか! 言うまでもないが、これは私の誠意だよ」

元々十を独り占めしていたのに、グレン側に四割も渡そうというのは、確かに破格だ。

これを機に四天王を味方にできれば今後が楽、という打算込みだろうが。

「お心遣いに感謝するが、オレが頼みたいのは二つだ」

「なんだい?」

予想外だったのか、バーンズが目を瞬かせる。

「一つは、この隠れ里一の美姫を、頂きたい」

「はは! なるほど! グレン殿も男だものなぁ! もちろん構わないよ!」

バーンズが下卑た笑みを浮かべるが、気にしない。

「もう一つ、エルフの男を、オレの取り分として頂きたい」

こちらには、怪訝な顔をされる。

「男? うぅん。確かにエルフは男も美しいが、女の性奴隷に比べて需要は低いし、頑固者ばかりで徹底抗戦の構えをとるんだ。生かして捕える手間を考えると、儲けにならないよ」

「その手間はオレが請け負う。エルフの男は性奴隷としてではなく、戦闘奴隷として人間に売りつけるのだ」

俺の言葉に、バーンズは思案顔となった。

「ほう……。エルフほどの魔法使いは人類では珍しい。確かに高く売れるだろうが、その矛先が我々に向く危険があるのでは?」

身内の小競り合いで使うやつもいるだろうが、魔族から買っておいて、魔族との戦いに投入する者もいるだろう。

「そこだよバーンズ殿。エルフが戦場で我々に牙を向けば、貴殿のエルフ狩りの正当性も強まるだろう?」

そもそもエルフは中立だ。味方でないなら敵理論でバーンズはエルフ狩りをしているが、それを快く思わない層は多い。

ぶっちゃけ、オレも内心では軽蔑している。

そんなバーンズだが、人間がエルフを戦線に投入するとなれば、堂々とエルフは敵だと言える。

奴隷として使役されている者を、種族ごと敵認定するのはどうかと思うが、そういう建前を立てられる、というのが重要。

監察官を殺すほどの徹底ぶりだ、バーンズはエルフ売買に関わっている証拠などは残していないのだろう。

オレの言葉に、バーンズは手を叩いて感心した。

「ははぁ! なるほどなぁ! さすがグレン殿! 確かにそれならば、喧しい外野共を黙らせることも出来よう! 加えて、そこで主人を殺せばエルフ男はまた売れる!」

エルフ男にとっては最悪のループだが、可能だろう。

ただし、この話は全部嘘だ。

バーンズに取り入り、エルフの男たちをなるべく死なせない為の方便である。

グレーゾーンの行為とはいえ、現状のオレの立場でバーンズを断罪することは出来ない。

よって味方のふりをしてエルフの被害を最小限に抑え、あとは勇者パーティーの到着を待てばいい。

彼らが来たら、バーンズには尊い犠牲になってもらう。

ちなみに、オレが求めた美姫というのは、原作でリットの仲間になるエルフヒロインだ。

こちらに関しては、念のためリット側ではなく、オレの仲間に引き込めれば、なんて考えている。

最悪仲間にできずとも、恨みを買わなければそれでいい。

何を隠そう、実際にグレンを殺すのは彼女なのだ。

原作では、ここでバーンズに森を焼かれたエルフヒロインは魔族全体を故郷や家族の仇として恨むことになる。

「取引成立でよろしいか?」

確認の言葉に、バーンズがこくこくと頷いた。

「あぁ! あぁ! もちろん成立だグレン殿! いやぁ、君とは仲良くなれそうな気がするよ!」

「光栄だよ」

オレは思ってもいないことを口にしながら、バーンズとの握手を済ませた。

「ふふ、では共にエルフの隠れ里を焼こうではないか!」

放課後ファストフードに誘うような気軽さで、バーンズは言うのだった。

バーンズに先導される形でたどり着いたのは、エルフが隠れ里に展開する結界の手前だった。

結界は目に見えないので、俺たちにはただ普通の森が広がっているようにしか見えない。

魔力的にもまったく違和感がないので、魔力探知に長けたものでも独力で見つけ出すのは至難を極めるだろう。

「結界の実在は確認済みだ。結界の内側から反撃があり、偵察に向かった部下が何人か死んでしまったよ」

なんてことのないように言うバーンズ。

部下を家族のように扱う者もいれば、バーンズやかつてのグレンのように代えの利くコマだと思う者も少なくない。

「結界は、エルフの固有魔法だったか」

その種族が共通して持つ魔法を固有魔法と呼ぶ。

淫魔ならば『魅了』や『吸精』、妖精ならば『幻惑』、エルフならば『結界』、ドワーフならば『錬成』など種族によって様々。

魔人と人間は固有魔法を持たないが、魔人は魔力が優れており、個々人に得意魔法が宿る。

「隠れ潜む為の魔法が、種族固有の魔法とは、臆病で哀れな種族だよなぁ!」

まったくそんなことは思わないが、エルフを捕らえるところまでは協力せねばならない。

そうしないとこいつの軍がエルフ男を皆殺しにし、エルフヒロインにも死ぬほど恨まれ、それが巡り巡ってグレンの死に繋がりかねないからだ。

「……結界の破壊はどうする」

「いやいや! グレン殿にはエルフ男の無力化を頼みたい! ここは私に任せてくれ! グレン殿ほど火属性の才には恵まれなかったが、その分私は風にも適性があってね! 家畜が逃げ込む藁小屋を吹き飛ばすのは、得意なんだ!」

実は、バーンズの家系は『四天王』『火の番』を何人も輩出してきた一族だという。

それが今代はグレンが就任したので、一族の中には恨みを抱いている者も多いと元監察官の男に聞いた。

それでも表面上は上手くやっていこうとするあたり、バーンズは柔軟なのかもしれない。

柔軟な悪人だ。

彼は不可視の結界が張られているという方向に腕を向けると、パチンッと指を鳴らした。

「『 大爆風(はぜろ) 』」

瞬間、森の一画が爆炎に包まれ、次いで俺たちの身体を爆風が撫でていく。髪が巻き上がり、服がバタバタと揺れた。

耳を塞ぎたくなるような轟音だったが、なんとか表情を変えずにいられたと思う。

煙が晴れると、何かが砕け散るような音と共に、樹上都市が姿を現した。

「知っていたかい? 奴らは木と木の間に橋をかけ、樹上で暮らしているんだ。ふふ、まるで猿のようだよな?」

バーンズは魔人至上主義の超絶差別主義者だ。

口を開く度に腹立たしくてならないが、今は味方のフリをせねば。

「すまんが、よく聞こえん」

爆音で耳がやられたことにしよう。

「あはは、それはすまない! では! 次はオレの仕事をお見せしよう!」

樹上と地上、どちらにもエルフ男たちが無数におり、杖を構えていた。

「おや……? 奴ら、何故見当違いの方に杖を構えているんだ?」

バーンズの言う通り、彼らは誰一人として、俺たちの方を向いていない。

まったく関係ない場所に、無数の魔法が降り注ぐ。

バーンズの軍も、呆気にとられていた。

オレは『陽炎』という魔法を編み出し、火属性で空気の屈折率を変えることによって、実際とは異なる位置に俺たちの姿を映し出したのだった。

これで少しは時間が稼げるだろう。

その間に、視界にエルフ男を収めていく。

「補足した。百四人だ」

「ん? グレン殿、何を――」

「『 見敵瞳燃(もえあがれ) 』」

百四人のエルフの男性全員が、同時に苦鳴を漏らす。

彼らについている計二百八の瞳から、発火したからだ。

狙いをつけるのは非常に難しいが、瞳を燃やすだけならば消費魔力は大したことがない。

加えて、魔法の狙いをつけるのは、大抵視覚頼り。

エルフの男性たちも、目が見えなくなっては同士討ちが怖くてロクに魔法など打てない。

そうなれば、一般兵でも魔法使いを捕らえるのは難しくないだろう。

辛い思いをさせて大変心苦しいのだが、命を救う為なので許してほしい。

「な、なんという繊細な魔法。これほどの魔力操作能力があるとは……」

バーンスがなにやら呟いている。

「バーンズ殿?」

オレの視線に、彼がハッとする。

「っ。あ、あぁ! さすがグレン殿だ! あとは任せてくれたまえ! ほら、行くぞみんな! エルフ狩りの時間だ! 今日は男も殺すなよ! 全てグレン殿に差し上げるのだからな!」

気の良さそうな笑顔を貼り付け直すと、彼は仲間に指示を飛ばすのだった。