軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8◇原作主人公

「グレン様」

「あぁ」

元監察官の男が、オレの前に跪く。

先日、こいつが自らの過去の職務について告白してきたのだ。

監察官というのは嫌われ者だ。見つけ次第秘密裏に殺す者もいると聞く。

最悪殺されてもおかしくないというのに堂々と訪ねてくるとは、大した度胸だ。

オレがそれを許すと、涙を流しながら喜んだこの男は、オレに忠誠を誓った。

なにやら怖かったが、助かるのも確か。

この情報収集能力は使える。

オレは元監察官の男を配下に加えることにした。

「それで、どうだ?」

早速調べさせていた件についての報告を受ける。

「ハッ。リットという冒険者ですが、確認がとれました。強化付与士としてギルドに登録されていますが、クエスト実績などを確認する限り、特段の脅威にはならないかと」

実績から得られる情報だけなら、そうだろう。

だがオレは知っている。

リットは、原作主人公だからだ。

彼は対象が『絶好調』と勘違いする程度の強化に徹し、仲間たちの自然な成長を望む。

だが仲間たちは増長し、付与時の力を基準にものを考え、リットを追放する。

この時、リットの強化付与が得られなくなるだけではない。

強化付与された状態での成長、戦闘経験などは、全てリットに還元される。

リットは、この恐るべき強化付与と強化回収を口にしない。

口にしないという誓いが、能力を強めているらしい。

なにやら呪術めいた手法だが、このあたりはまだ原作でも詳細不明だった。

とにかく、リット自身は心優しいが、能力の設定と仲間の所為で追放されまくってしまい、結果的に超強くなるわけだ。

原作は追放シーンから始まるが、一応彼らは『一年近く』冒険したと明かされている。

だが、現在のグレンの記憶にある勇者パーティーには、リットの姿はない。

そこで、まだ加入前なのではないかと思ったのだ。

「グレン様?」

黙っているオレに、元監察官の男が心配げな視線を向けていた。

「以前、魔族との対話を望む冒険者がいると聞いてな」

「それが、この者ですか?」

オレは頷く。

「あぁ。そして先日、勇者パーティーの付与士が命を落とした。次に勇者パーティーが向かう街が――」

監察官の男が何かに気づいたようにハッとした。

「!! リットの在籍する街ですね。確かに、これでリットを雇えば、勇者パーティーは内憂を抱えることになります。しかし、そう都合よく進むでしょうか?」

「勇者パーティーはギルドに縛られない存在だ。王の威光を笠に来てメンバー募集などしたところで、ギルドが快く優秀な人材を差し出すと思うか?」

ギルドは各町に設置され、冒険者をまとめる組織だ。

薬草集めから魔物退治、商人の護衛や迷宮探索など、様々な依頼を扱っている。

だが、勇者パーティーは世界を救うのが目的。

自分の街の戦力を、世界の為とはいえ差し出すというのは、ギルドからすれば嫌なことなのだ。

「なるほど、リットの実力はギルドにとって丁度いいわけですね?」

渡したくないが、失うならこいつあたりにしよう、という評価なのだ。

「では、今後勇者パーティーは、魔族との融和を望む足手纏いが加入する、と」

「それをより強固にする為に、リットに会う」

「え?」

監察官の男がぽかんとした顔になった。

最近は俺が驚かされる側になることが多いので、新鮮だった。

数日後。人類の国、とある街。

「強化付与士リット」

夜。

リットの帰り道を狙って声をかける。

今の俺はローブとフードで姿を隠していた。

人類領に魔人がいると知れれば大騒ぎになる。

「……なんでしょう」

リットは不審がりながらも、止まってこちらを向いた。

肩までの黒髪に、中肉中背、そして中性的な顔。

特別個性のある顔ではないが、人を警戒させず、安心されるような雰囲気を纏っていた。

「お前に話がある」

「伺いますよ」

「ここではまずい」

「わかりました」

いい子なのは分かるが、この少年の素直さは、読者時代ハラハラしたものだ。

ともかく、二人で路地裏に入る。

「それで、お話とは?」

「こちらに敵意はない。それだけははっきり伝えておく」

「信じますよ。殺意を感じません」

なるほど、そのあたりの判断もあって、話を聞くくらいはいいと思ったのか。

にしても不用心だが。

「オレは四天王『炎の番』グレンスフィオールだ」

オレはフードを下ろし、魔人であることを明かす。

「……今、最も人類を苦しめている魔族ですね」

衝撃の展開に一瞬だけ驚きの表情を浮かべたリットだが、すぐに落ち着きを取り戻した。

このあたりの胆力も主人公たる所以なのかもしれない。

「そうだな。オレがそのように振る舞っている理由についても、説明してやろう」

オレは、魔王軍に広まっているのと同じ話をする。

「……なるほど。戦争が止められないなら、せめて自分が悪者になることで仲間の助けになろうと」

「ほう? 素直に信じると?」

さすがに、これは受け入れがたいのではとも思ったのだが。

「ここ最近のグレン部隊の動きと矛盾しません。人類はグレン部隊に釣られたところを、別部隊に襲撃されて壊滅、というのを繰り返しています。何度もハマってしまうほど、貴方への恨みが大きいのでしょう」

深追いすれば危険だと分かっていても、たとえばその相手が故郷を焼いた相手なら? 妻を殺した相手なら? 人類の指揮官が追撃命令を出してしまうのも無理はない。

しかも、以前のグレン部隊は自分達こそが主役という面で最前線に出ていた。

それが急に仲間を立てるやり方をするなど、情報を得ても信じられない、という者がいるのもおかしくない。

我ながら悪辣な手だとは思うが、人類に魔王様を差し出すような裏切りはできない。

正直、夜魘されたり、吐きまくったりと大変だったが、最近は慣れつつある。

最悪な慣れだが、永遠に吐きまくるよりいい。

ちなみに、そんなオレをニャルルが毎日のように慰めてくれた。

最近では、朝起きると隣で寝ていることもある。

……どんどんこの世界に染まってしまっている気がする。

それを見たコキューリアは怒るどころか、最近はニャルルと楽しげに話をしていることも多い。

何を話しているかは秘密らしい。

脱線した思考を切り上げ、リットとの話に集中する。

「恨むか?」

「いいえ。元は、人類が魔族の秘宝を求めて起こした戦いです」

その通りなのだが、随分理性的なことだ。

「貴様に叶えたい願いはないと?」

「あります。願いが叶う秘宝など、この世にないほうがいい」

オレは驚かない。

それが原作における、リットの戦う理由だからだ。

願いが叶う秘宝のない世界。

争う理由のない世界だ。

秘宝がなくなれば平和になるかは微妙なところだが、争いの種をなくしたいという善良さは、嫌いじゃない。

「秘宝は壊せん。秘宝に自壊を『望む』なら別だが、その魔力は誰が支払う?」

願いを叶えるには、それに見合う魔力を捧げる必要がある。

願いを叶える秘宝を壊すだなんて、一体どれだけの魔力が必要になるやら。

「機会を頂ければ、僕が」

よし、ここだ。

「素晴らしい。では、オレが機会を与えよう」

「え?」

さすがに予想外だったのか、リットが素っ頓狂な声を上げる。

「オレも争いは好かん。だが国の為に戦っている」

争いを好かないのは本当だが、後半は嘘だ。

実際は死にたくないから奔走している。

「はい。僕も、人々の為に戦っています」

こちらは本当だろう。

原作の本文が嘘だった、なんてことがない限りは。

「オレが魔王様を説得する。そしてお前に秘宝の使用権を与えよう」

「……代わりに、僕は何を」

さすがに話が早い。

「数日後、お前は勇者パーティーに誘われる。それに加入し、奴らを正しき方向に導け」

「ぼ、僕が勇者パーティーに?」

リットは信じられない、という顔をする。

「あぁ、確実にな」

「正しき方向というのは?」

訝しげな顔は崩さぬまま、リットが会話を進める。

「勇者は魔族と見れば善悪を無視して殺す。それを止めさせたい」

「……けれど、今の僕にはそれを止めるだけの力がありません」

一年後にはその力が宿るけどな。とは言わない。

言っても意味がないしな。

「敵はオレが用意する。我が軍の中で、魔王様の意向を曲解して戦う者たちの情報を渡す」

「……エルフの森を焼く者や、ドワーフを奴隷にして武具を鍛えさせる者がいる、とは聞いていますが」

「そうだ。そういう輩の情報を、貴様に渡す。貴様が、勇者を正しい行動に導くのだ」

「人類は悪しき魔族を退治できて、貴方は邪魔者を排除できると?」

「その通りだ」

グレンの変化に好意的な者は多いが、全軍が全肯定なわけではない。

疑う者や、毛嫌いする者も、まだまだ多い。

それだけならば構わないが、どうあっても味方に引き込めない悪者たちもいる。

そういうどうしようもない連中は、勇者パーティーに倒してもらう。

我ながら悪魔的発想だが、俺は死ぬつもりも魔王様も裏切るつもりもない。

ならば、魔王軍の中で暗躍してでも、生存ルートに辿り着くのみ。

「悪しき魔族がいなくなった時、どうしますか?」

リットの問い。

「人類との対話の時間だ。お前なら、乗ってくれるだろう?」

これはリットにもデメリットがない。

オレが契約を守っている内は悪い魔族を倒せる。

もし裏切っても、オレを倒してしまえばいい。

「勇者さまが乗ってくれなかったら……」

「これまでのお前の仲間たち同様に、勇者が落ちぶれることとなるだろうな」

リットが目を見開く。

「――グレンスフィオールさん、貴方」

気づいている、と暗に伝えたつもりだが、通じたようだ。

リットは誓いの所為で能力の正体を他者に伝えることができない。

彼は別に、クソ野郎どもから経験値を巻き上げたいわけではないのだ。

毎回、信じた上で裏切られているだけ。

「わかりました。よろしくお願いします」

しばらく無言の時間が流れたあと、リットが決意するように頷く。

「あぁ」

オレとリットは握手する。

「貴方にも、強化付与をかけましょうか?」

「ふっ、やめておく。己の力を過信したくはないからな」

それに、仮に彼と敵対する未来になった時、成長分を彼に回収されるのはよろしくない。

リットとしてはその方がいいのだろうが、打算で言っている気配はない。

彼のはただの善意だろう。実際、すぐに引き下がった。

「そうですか」

「情報は使い魔を通して渡す。お前からも何かあれば、その時に使い魔に渡せ」

「分かりました」

「あぁ、だが最初の敵については教えておこう。エルフ奴隷で財を築いた『十二魔将』『爆塵』のバーンズだ」

「バーンズ……」

「奴の趣味は――エルフの村を焼くことらしい」

「……彼が次に狙う場所は?」

俺は答える。

「エルネイネ幻影森にある、エルフの隠れ里だ」