軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10◇勇者

さすがは『十二魔将』、兵の統率はしっかりととれていた。

バーンズの軍がエルフ村を侵略し、次々にエルフを捕らえていく。

男は殴られ意識を失い、女子供が泣き叫ぶ。

エルフは老人だろうが見目麗しいので、不要だと処分される者がいないのが救いだ。

ちなみに、エルフは男が攻撃に、女が守りに特化しているという。

しかし女はその魔力の大部分を結界維持に使っている為、結界が破られると簡単に捕まってしまうのだとか。

だからこそ、これまでのバーンズは邪魔な男を殺していたのだろう。

「グレン殿! こちらへ!」

ほどなくして、崩壊したエルフの隠れ里へ、オレは足を踏み入れる。

橋は焼け落ち、樹上に築かれた家は炭と化していた。

随分とむごいことをするものだ。

バーンズは、地上の開けた場所に、捕らえたエルフたちを並べていた。

魔力は体力のようなもので、一度切れると、そう簡単には回復しない。

瞳が無事な女エルフたちはみな憎悪や恐怖を目に宿しているが、後ろ手に縛られても抵抗できないのは、その手段がないからだ。

こうして捕らえられたエルフたちは、契約魔法で縛られ、奴隷として売られる。

本来契約魔法は互いに取引を完遂させるためのものであったが、『脅迫に屈する形での同意』でも発動する為、『家族を殺されたくなかったら、奴隷契約に同意しろ』なんて理不尽も罷り通ってしまう。

そんなガバガバでいいのだろうかと思うのだが、契約魔法の強要は法で禁止されており、露見した場合は最悪処刑される。

だが、この法が適用されるのは魔族が相手の時のみ。

人間やエルフなどには適用されないのだ。

合法とはいえ、コキューリアあたりはブチ切れそうだけれども。

当然、オレも胸糞悪い。

あとで助けるのだとしても、エルフたちが感じた恐怖は本物なのだから。

「選りすぐりを用意しておいたぞ! どのメスにするんだい?」

四人の美少女エルフが、服を剥かれた状態で立たされている。

あまりに酷い光景だが、グレンとして顔を顰めるわけにはいかない。

精一杯平静を保ち、四人を見回す。

みな、人間ならば絶世の美女に数えられる美しさだ。

――いた!

編み込みの入った、金の長髪。青い瞳に、白磁の肌、細い身体に、丸みを帯びた豊満な胸部。

エルフヒロインの、ミュークルだ。

本来は心優しい子だったのだが、バーンズに故郷を奪われたことで復讐の鬼になる。

今はまだ、不安そうに瞳に涙を湛えていた。

過去編の挿絵があったからこそ気づけたが、そうでなかったら見た目では分からなかっただろう。

それくらい、過去編と本編時空で顔つきが違うのだ。

原作ではここで彼の兄と父は殺され、母たちは売り飛ばされる。

「この者を」

と、オレが手で指し示すと、ミュークルはビクッと震えた。

罪悪感が凄まじい。

「さすがグレン殿、お目が高い! これは、隠れ里の長の娘だそうだよ。性奴隷に教養など不要という考えもあるだろうが、最低限の考える頭は必要だものな。いやはや、審美眼まであるとは!」

バーンズの部下が、ミュークルをオレの前まで引きずってくる。

「いやぁ……ッ! お母さん! お父さん! お兄ちゃん!」

「ははは! そいつら全員、負けたんだよ! お前を助けられるものか! バカな耳長め!」

バーンズが楽しげに笑い、部下も追従する。最悪の空間だ。

オレはマントを外すと、彼女にそっとかけた。

バーンズが怪訝な顔をする。

「自分のモノを、見せびらかす趣味はなくてな」

彼は得心がいったとばかりに頷いた。

「なるほど! それは失礼した! そうだ! あそこに天幕を張らせてある。商品の鑑定や積み込みに少々時間がかかるから、よければ休憩されてはいかがだろう? 奴隷契約は、また後ほど行えばいい」

つまりは、早速ミュークルとエロいことをしてこい、と気を遣っているつもりなのだろう。

吐き気がするが、この場を離れるには好都合か。

「お心遣い、ありがたい」

「いや、貴殿のおかげで被害を最小限に抑えられた! こちらこそ感謝が絶えないよ! 今後ともよろしくできれば幸いだ! ははは!」

オレはそっとミュークルの背中を押す。彼女はまだポロポロと涙を流していたが、抗っても無駄だと悟ったのか、下を向きながら歩き出す。

母親らしき女性がミュークルの名を呼び「やかましい!」と猿ぐつわを嵌められていた。

さっさと救出してやりたいが、こちらにも計画がある。

心の中で謝罪することしかできなかった。

天幕に入ると、誰かが聞き耳を立てていないかを確認。

魔力探知を行うことで、大抵の魔族は検知できるので、索敵にも使える。

「よし。見張りはついていないな」

「ひぃっ」

オレが突然話しだしたからか、ミュークルが怯えてしまう。

「あぁ、すまない。こんなことを言っても信じられないだろうが、オレは敵じゃない」

彼女がぷるぷると生まれたての子鹿のように震えていた。

「…………」

どう伝えたものか。色々考えてはいたのだが、実際の被害を目にすると、用意していた言葉はどれも薄っぺらく、彼女に届かない気がする。

「君の、お母さんも、お父さんも、お兄さんも、大丈夫だ。助かるよ」

なんとか捻り出した言葉に、彼女が目を見開いた。

「……どういう、ことですか」

「少し話が長くなるんだが……」

オレは、リットにしたのとほとんど同じ話を、彼女に伝える。

「魔王軍にも、いい人と悪い人がいて……貴方は、いい人?」

ミュークルはオレの話をそう解釈したようだ。

「そう在りたいとは思っている」

同胞を陥れようとしている者が善人と言えるかは別として。

「いい人なら、あの人がここを襲う時に、止めてくれれば……」

恨みがましい視線に胸が痛む。

「そうだな。だが、オレの立場では、それは出来ないんだよ。出来るのは被害を最小限に抑え、君たちが助かる道を用意することだった……」

「勇者という人が来て、悪い人たちをやっつけてくれるんですか……?」

「その予定だ」

襲撃前には間に合わなかったようだが、リットにこの場所は伝えてある。

バーンズが移動を開始する前には到着してほしいものだが……こういう時、スマホですぐ連絡がとれないのはもどかしい。

使い魔を通してやりとりしているが、これは伝書鳩で連絡を取り合っているのと同じなのだ。地球とは、情報伝達の速度が雲泥の差なのである。

「グレン様」

天幕にニャルルが入ってきた。

「ひゃっ」

驚いたミュークルが飛び上がった。

その拍子にマントがズリ落ちそうになり、俺は咄嗟に支える。

「大丈夫だミュークル。オレの味方だ」

ニャルルはミュークルを一瞥したが、特に何を言うでもなく、俺の前に膝をつく。

今の彼女が身にまとっているのはメイド服ではなく、女スパイが着てそうなピチッとした服であった。

獣人は身体能力に優れるが、魔力の少なさから魔族内で冷遇されている。

だが、見方を変えれば『魔力が少ないゆえに魔力探知に引っかからず、素の身体能力が高いので魔力強化をする必要がない』とも言える。

獣人は真正面からの戦いを好むが、そこの意識さえ変えることができれば、非常に優れた諜報員や暗殺者になれる素質があるのではないか。

俺はそう考え、ニャルルに相談したところ、彼女の一族が率先して協力してくれることになった。

屋敷ではメイド、任務に出れば諜報員というわけだ。

諜報技術に関しては、元監察官の部下に指導させている。

「勇者パーティーが近づいています。最も近い部隊と接敵するまで、五分ほどかと」

ようやくか。

「そうか、来たか」

俺はミュークルに向き直る。

「もうすぐ助けがくる。だが、バーンズという男は周囲への被害を考えるような奴じゃない。劣勢になればエルフを人質にとることも厭わないだろう」

「そ、そんな……」

ミュークルの目に絶望が滲んでいく。

「だから、君たちを逃がす。バーンズの部下もいるだろうが、安心してくれ。しばらく行った先で、俺の仲間が必ず君たちを助けてくれる」

バーンズはグレン部隊を警戒しているかもしれないので、シンラとコキューリアに救援を頼んでおいた。

無理やり性奴隷にされた――と思われている――コキューリアが俺に協力するなど誰も想像していまい。

実際は、ニャルルと代わる代わる、夜這いを仕掛けてきているのだが。

「ニャルル、お前はシンラたちと合流してくれ」

「はいにゃ!」

シュッとニャルルが消える。すごい身体能力だ。

「行こう、ミュークル」

「……信じて、いいんですか?」

ミュークルが涙で潤んだ瞳を俺に向けた。

俺は彼女から視線を逸らさずに告げる。

「必ず君を助ける」

死にたくはないからな。

ミュークルはこくりと頷き、俺についてきた。

「敵襲だ! 戦闘の邪魔になる! 奴隷を逃がせ!」

天幕から出たオレが叫ぶと、近くの者たちが反応する。

「え? い、いやしかし――」

「バーンズにはオレが説明する! この強大な魔力が感知できないのかグズめ! 逆らう奴はここで消し炭にしてやってもいいんだぞ!」

グレンの悪評は、こういう時には役に立つ。

バーンズの部下たちは、怯えたように震えると、すぐにエルフ奴隷たちを馬車に乗せ、襲撃者たちと反対方向に走り出した。

「こいつも任せた。傷一つでもつけたら承知せんぞ!」

「は、はいぃ……!」

ミュークルにだけ見えるように、ウィンクする。

彼女は、少し、ほんの少しではあったが、笑ってくれた。

「グレン殿!」

バーンズが駆け寄ってくる。

「バーンズ、貴殿なら気づいていよう」

「あぁ、異様な魔力が急速に近づいてきている。なんだこれは!?」

「オレは戦場で数度、この魔力を感じたことがある――勇者だ」

「なんだと!?」

勇者パーティーは、勇者ゼニス、魔法使いレジーナ、剣士エイリ、重戦士ゴードン、強化付与士リットという構成だ。

勇者ゼニスは『十倍の速度で成長できる聖剣』を持っており、それによって無双している。

そこに仲間たちのフォローも入り、手が付けられない魔族の脅威となっていた。

勝利を重ねるごとに調子に乗っていく残念な性格の所為で、原作始まって数十ページで破滅する、可哀想な奴だ。

リットが加入してからの成長分は、彼を追放したことによって全て失ってしまう。

一年分の経験値を喪失したゼニスは、リットの快進撃に反してどんどん落ちぶれていく。

しまいには聖剣まで失い、『喰った相手を取り込む魔剣』に食べられ、変わり果てた姿でリットたちの敵となり、討伐されるというオチだ。

しかし、現時点では、仲間と連携して勝利を積み重ねる、まさに最強の敵。

「勝手だとは思ったが、馬車は逃がしておいた」

「いや、迅速な判断に感謝する。最近はエルフも減ってきたからね、貴重な商品を失うわけにはいかない。して、どうするグレン殿!」

「ここで奴らを食い止めねば、商品に追いつかれる」

「チッ……なんだって、このような場所を嗅ぎつけたのだ」

「奴らの魔法使いは魔力探知能力に優れているという。我々の行動が、探知に引っかかったのだろう」

「忌々しい……! だが、『十二魔将』が敵前逃亡などするわけにはいかない。ここで迎え撃つ――グレン殿、手伝ってくれるか?」

……嫌だなぁ。

できれば彼にはここで一人死んでほしい。

だがオレは堂々と頷く。

「もちろんだ。ここはバーンズ殿の戦場、敵将の首は譲ろう。残りを、オレが頂いても?」

「フッ。これが終わったら、ドワーフから奪った、特別な酒を共に呑もう」

ドワーフにもちょっかいかけてたのかよ。本当にどうしようもないな。

「それは楽しみだ」

耳を澄ますと、バーンズの部下たちの断末魔が徐々に近づいてきた。

「おらおら死ね死ねクソ魔族共がぁ! 正義の裁きを受けやがれぇッ!」

正義の味方のセリフとは思えないセリフが森に響き渡る。

しかしこの、整った容姿を醜い性格で歪めまくっている金髪碧眼の男こそが、勇者ゼニスであった。

勇者一行が、オレたちの前までやってくる。

「なんだぁ……? お前らがここの親玉か?」

「『十二魔将』『爆塵』のバーンズ」

「『四天王』『炎の番』グレンスフィオール」

「ハッ、今から死ぬゴミの名前なんか覚えるかよ。だが、俺の名前は脳みそに刻んどきな。勇者ゼニスにぶっ殺されたと、地獄で宣伝しろやカス魔族共!」