作品タイトル不明
11◇VS勇者パーティー
「『 爆熱(はぜろ) 』!」
「『 裂魔(きえろぉ) 』!」
バーンズの爆破魔法が勇者を包むが、爆炎は不自然に掻き消えた。
ゼニスが聖剣を一振りすると、まるで刃物で果実でも切るかのように、爆炎が断ち切られてしまったのだ。
これこそがゼニスの魔法。
『魔法を斬り殺す魔法』だ。
ゼニスに斬られた魔法は死、つまり消滅を強制される。
勇者に選ばれるのも納得な、破格の魔法である。
とはいえ、力に人格が伴っていないあたり、残念極まりないのだが。
人格が伴っていたら主人公を追放したりしないので、フィクションとしては仕方のない面もある。
そんなキャラクターが実際に目の前に現れると、迷惑極まりなかった。
勇者がバーンズに突っ込んでいる間に、俺は残るメンバーたちを相手どる。
魔法使いレジーナは色っぽい紫髪の美人、剣士エイリはポニテの黒髪和風美人、重戦士ゴードンは全身が鎧に覆われて中身が見えない。リットは先日会った原作主人公だ。
こちらの三人はリット追放に反対しており、ゼニスが落ちぶれたあとにリットと再び仲間になる。
そしてリットは美少女だらけの最強パーティーを結成することになる。
当時はそれを素直に楽しんでいたオレだが、グレンとなった今は将来の脅威でしかなかった。
「『 加重(ついえろ) 』」
魔法使いレジーナの重力魔法だ。
指定範囲の重力を強める厄介な魔法だが、魔力の流れで効果範囲を読み、寸前で移動すれば回避は可能。
並みの魔法使いや兵士には不可能だが、この身体は四天王グレンなのだ。
「ほう、レジーナの初撃を回避するとは見事!」
避けた先に迫りくるのは、剣士エイリだ。異世界モノに当たり前に出てくる日本刀には驚くまい。いや、この作品ではゴーストシミターという名前なのだが。
そのゴーストシミターがオレの右下から左上に向かって、掬い上げるように振るわれる。
このままでは真っ二つにされる軌道と威力。
「『 融灼手(もえあがれ) 』」
魔法とは現象を魔法で再現するものであり、その再現度は術者の実力によっていかようにもできる。
術者本人には熱を伝えず、対象のみを灼き溶かす炎を生み出すことも可能。
グレンの右手が青い炎に包まれ、それによってエイリの刀を掴むことで、どろりと溶かしてしまう。
「な――!」
エイリが瞠目する。
彼女のゴーストシミターは故郷で名匠に打ってもらった名刀であるというから、申し訳ないことをした。
「エイリ下がれ!」
兜越しのくぐもった声。
重戦士ゴードンが大剣を振りかざして迫っていた。
まともに受ければ、俺の身体が綺麗に左右に分かたれてしまうだろう。
「『 融灼波(もえあがれ) 』」
そんな末路はごめんなので、先ほどの魔法を衝撃波のように打ち出す。
ゴードンの大剣と盾と甲冑だけが溶け、中の人物が太陽の元に晒された。
中に入っていたのは、大柄な赤髪の女性だった。
「~~~~っ! む、無理ぃ……!」
か細い声を上げながら、赤面した女性が脱兎のごとく後退する。
原作既読のオレは驚かない。ゴードンというのも偽名で、彼女は普段、男のフリをして過ごしている。
そして、鎧を身にまとっていないと恥ずかしくて人前に立てないのだった。
これでエーリとゴードンの無力化に成功。
「二人共、充分よ。あとはアタシが――『 炎葬(やきつくせ) 』」
巨大な炎の塊が、レジーナの頭上に浮いている。
まるで太陽が落ちてきたみたいだ。
魔力量から見て、城さえも一撃で破壊できる規模の魔法である。
「れ、レジーナさん! やりすぎです!」
オレと通じているリットが、さすがに危ないと思ったのか叫ぶ。
「あら、エルフの女子供を奴隷にするような悪い子には、似合いのお仕置きじゃない?」
レジーナたちからすればそういう認識になるだろう。
勘違いだと叫ぶわけにもいかないので、内心冷や汗を掻きつつ対応する。
「『 紅蓮麾下(もえあがれ) 』」
レジーナの魔法が、俺に向かって飛んでくる。
その炎の塊に向かって、オレは手を翳す。
俺を呑み込む軌道を描いていた炎の塊が――ぴたりと止まった。
「……まさか、そんなことが」
レジーナが目を見開いて驚愕の声を上げた。
オレは内心でほっとしながら、表向きは不敵に笑う。
「魔法使いレジーナ。貴様は敵が得意とする魔法で相手を殺したがるクセがあるようだな。悪いが、この世の炎がオレを炙ることはない」
敵の炎さえも己のものとするイメージで魔法を構築し、魔法の操作権を奪ったのだ。
正確には敵の魔法に自分の魔力を同調させたわけだが、慣れ親しんだ炎魔法でなければ、これほど早く操作権を奪いとることはできない。
レジーナのこだわりが、オレに利したわけだ。
彼女の性質は原作で判明していたので、事前に対策を考える時間があったこともよかった。
オレをぶっ殺せるだけの魔力を込めたので、レジーナとてすぐに高威力の魔法は放てない。
さて、奪った魔法をどうしようか。
まさかこの子たちにぶっ放すわけにはいかない。
勇者ゼニス以外の子は、人々の為に戦う善人なのだ。
「ゼニス! こいつを倒すにはアナタの力が必要だわ!」
レジーナが叫ぶ。
「ったく、しょうがねぇ奴らだなぁ! 俺がいねぇと、何も出来ねぇんだからよ!」
ゼニスの手には、バーンズの頭部が握られていた。
いつの間にか戦闘音がしなくなったと思ったが、殺されていたようだ。
元々の予定通りとはいえ、いい気分ではない。
ゼニスはサッカーでもするように、バーンズの頭部をこちらに蹴って寄越す。
俺は左手でそれを受け止める。
「はは、ナーイスキャッチ! そんで次はお前をボールにしてやるよ! バカな魔族は球蹴り知らねぇか?」
バーンズはクズだったが、どんな相手の遺体だろうが、弄ぶ権利があるだろうか。
「……死者を足蹴にするのが知性ならば、オレは愚かで構わん」
「うるせぇ、死ね」
ゼニスにとって、魔族は口を利く害獣でしかない。
オレの話すこなど興味ないのだろう。
「ゼニス! 気を付けて、そいつの魔法は一流よ!」
「黙ってろレジーナ!」
オレはレジーナから奪った魔法を、勇者ゼニスに向けて放つ。
「『 裂魔(きえろ) 』!」
ゼニスが聖剣に魔法を纏わせて炎を斬り裂いた――かに見えた。
「貴様の魔法は知れている」
オレは自らの意思で魔法を分割したのだ。
「だからなんだボケ!」
分割した魔法を更に分割、更に分割、更に分割と繰り返す。
無数の炎の剣となった魔法が、彼の周囲をぐるりと囲む。
「これより一分の間、全方位から貴様に炎の剣が襲いかかる」
「…………ッ」
ゼニスが立ち止まり、初めて焦りの表情を浮かべた。
「魔法はイメージの世界。貴様は聖剣で斬ることでしか、敵の魔法を無力化するイメージを抱けない。ならば、貴様が刃を振るえる限界を超えて攻撃するだけだ」
ゼニスが使うのは『魔法を斬り殺せる魔法』だ。
その魔法に聖剣の力が加わることで、あらゆる魔法を無効化出来る。
まさにチートだが、斬らねば意味がないのは、生身の敵を相手にする時と同じ。
ならばやりようはある。
オレがそれを知っているのは、原作を読んでいるからだ。
ゼニスからすれば自分の弱点が知られているのは腹立たしいことのこの上ないだろう。
「その賢い頭で打開策を思いつけるか?」
「クソカスゴミカス魔族がぁあああ!」
「語彙が貧弱なのをなんとかしろ、聞くに耐えん悪態だ」
「絶対にぶっ殺して――」
瞬間、ゼニスが炎の剣の群れに襲われて見えなくなる。
「何か言ったか? よく聞こえなかった」
一分後、煙が晴れたあとに残されたのは、全身に火傷を負ってぴくぴく震えるゼニスであった。
これで生きているのは、さすが勇者といったところか。
勇者パーティーが絶望に包まれる。
オレは左手にバーンズの首を抱えたまま勇者に近づき、無傷の聖剣を右手で拾い上げた。
「これは回収させてもらおう。正義を行うなら、武器に頼らず志と実力を磨くことだな」
尤もらしいことを言いながら、魔族の脅威を取り除いておく。
「……連れ去られたエルフを、どうするつもりですか」
リットが言う。彼としては気になるところだろう。
「元より、オレはバーンズの行いを止める為にこの場を訪れた。ここで待っていれば、すぐにエルフたちも戻ってくるだろう」
「……アタシたちを、殺さないの?」
レジーナが冷や汗を流しながら問うてくる。
彼女はオレを殺すつもりでいた。
自分が殺される覚悟も持っている、ということだろう。
「何故だ? エルフを救うという目的は同じだ。迫る火の粉は払うが、闇を照らす明かりまで消す必要はあるまい」
グレンになってから、気取ったようなセリフがぽんぽん出てくるようになった。
性格こそ最悪だったが、グレンは二度と孤児時代のような環境に戻らぬようにと、様々な本も読んでいたようだ。学がない、と思われたくなかったのかもしれない。
その努力を、品位を身につける方にも向ければよかったのに、と思うが今更だ。
勇者パーティーが俺に向ける視線が、変わったように感じた。
憎むべき敵から、どう捉えればいいか分からぬ存在へ。
「……『四天王』『炎の番』グレンスフィオール。アタシは魔法使いレジーナ。今日はアタシの完敗よ。次は驕りを捨て、全力でアナタに挑むわ」
レジーナの魔法使い魂に火がついてしまったらしい。
「ならばオレも、より高みを目指すとしよう」
なんて言ってみるが、正直レジーナとはもう戦いたくない。
今後、リットの強化を得てどんどん強くなるのだ。
「信じますよ、グレンスフィオールさん」
リットが俺の目を見て言う。
俺は返事をせず、炎を噴かせて空を飛び、仲間たちと合流すべく移動を開始する。