軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5◇改革案と弟分

「さて、先日の勝負はわたくしの負けですが、諫言させて頂くなら、グレン殿のやり方には改善の余地があります」

コキューリアとの交際が認められた翌日。

王都のオレの屋敷に設けられた執務室で、コキューリアが言う。

昨晩、寝台の上で見せてくれた可愛い姿からは想像できぬ、キリッとした顔だ。

そういったギャップがまた素晴らしいと思う。

「聞こう」

彼女の言いたいことはオレも気づいているが、グレンとしてここは拝聴すべきだろう。

「貴殿が人類軍の注意を引いてくださっているのは理解しました。しかし、問題もあります」

「兵の損耗か?」

「それもありますが、獲得した領土が焦土のみなのも問題です」

その通りだ。

グレンは人類領を焼け野原にして獲得する。

人類の砦や城塞があれば焼き落とす。

そんな土地をどう利用しろと言うのだろう。魔王軍も頭を抱えたことだろう。

実際、ブチ切れた人類軍の反抗で奪い返された土地も多い。まぁ、向こうも焼け野原を奪還したところで何が出来るでもないのだが、土地を無駄に奪い合って互いに戦死者を出しまくっているわけだ。

もう少しスマートに出来るなら、その方がいい。

「『氷の番』として、どうするべきだと?」

「貴殿がいる戦場ならば問題ありませんが、貴殿が抜けたあとのことを考えて戦う視点もほしいのです」

「森や畑を残し、民は殺さず敵兵は捕虜に、か?」

「苛烈に憎まれることこそが目的なのでしょうが、もう少し抑えても我々は上手く戦えます。どうか信用して頂けないでしょうか?」

大変ありがたい申し出だ。

「オレも似たようなことは考えていた」

グレンはまったく考えていなかったが、イイジママサタカとしてのオレは考えていた。

グレンだけでなく、部隊も変わっていかねばならないと。

「そうではないかと思っていました。ですが、一応伝えねばと」

「だが、実践にあたって二つの障害がある」

オレは指を二本立てた。

「部下の気質ですね」

コキューリアの言葉に頷き、指を一本丸める。

これが問題の一つ目。

「種族を問わず気性の荒い者を集めたのは、オレの策を遂行するにあたって都合がよかったからだ」

嘘だ。本当は、そういう人材しかグレンのヤバさについてこなかったからだ。

グレンは孤児の出なので、血縁に頼った人材の確保は出来なかったし、内心で出自を馬鹿にする者も多く、グレンのプライドがそういった者たちを部下にすることに耐えられなかったのだ。

結果として、グレンは自分と同じような後ろ盾のない荒くれ者ばかりを配下に引き込むこととなった。

しかしコキューリアはわかっていますとばかりに頷く。

「残虐な行為を気にも留めぬ輩だからこそ、憎まれ役を見事に果たしているわけですね」

という感じで、いいふうに解釈してくれる。

最近はこういう誤解に慣れてきた自分がいる。

「あぁ。方針を急に変えれば、造反者が続出するだろう。そいつらが次に何をするかは想像したくもない」

仲間を襲いだしたり、勝手に人類に手を出して余計な問題を起こしたり。

グレンはクズを結集させることで、結果的に被害を戦場に集中させていた。

だからといって擁護の余地はないが、良い面もゼロではなかったという感じか。

悪い面が多すぎるので、相殺は出来ないのだが。

「粛清するにも数が多いですね……。加えて、貴殿がそれを実行すると、作戦次第で同胞を切り捨てる卑怯者の誹りを受けてしまいます」

コキューリアが心配そうに言う。

確かにその通りだ。

利用するだけ利用して、要らなくなったら部下を切り捨てるような人間に誰がついてくるというのか。

「ではわたくしが請け負いましょう」

いや、それだと邪魔になった部下を恋人に始末させるクズになるではないか。

凶悪さが増している。

バレなければいい、という問題ではない。

次こそアケロスに殺されてしまうだろう。

「最終的には手を借りるかもしれんが、まずは対話を選びたい。あのような者たちでも、部下だからな」

「! 失礼いたしました」

コキューリアが頭を下げる。

部下の始末などと言って、オレの不興を買ったと思ったのだろう。

「気にするな」

「……では、二つ目の障害とは?」

空気を変えるようにだろう、コキューリアが話を進める。

「お前なら気づいているだろう」

オレがそう言うと、コキューリアが気まずそうな顔になった。

「『三界』『森聖』のシンラスフィオール殿ですね」

「あぁ」

シンラはグレンの義理の弟だ。

というか、孤児時代の弟分である。

グレンと同じように、才能を見込まれて魔王様が拾ってくださった。

しかし魔王様に拾われて以降、あちらはメキメキと頭角を現し、歴代最年少で『三界』に選ばれた。

『三界』は特殊技能を持ち、特定の部隊に属するべきではないと判断された人材が任命される。

たとえば『浮雲』のサクヤリネイルは優れた癒し手で、対象が死んでさえいなければ治せるという。

負傷者は彼女のところに運ばれて、完治してすぐに戦場に戻るわけだ。

「お二人の間には、確執があるようでしたが……」

『森聖』のシンラは、植物魔法の適性を持つ。

この世界では非常に稀少で、重宝されている。

シンラが本気を出せば、一日で森が築けるというから驚きだ。

しかしグレンは弟分が成り上がるのが気に食わなかった。

彼が人類領の森や畑を焼きまくっていたのは、シンラの魔法を思い出してイライラするというのもあったようだ。

グレンの記憶からそれが分かるが、オレにそのような考えはない。

しかもグレンは、自分の尻拭いにシンラが出撃することを拒否し、一度はシンラが再生させた自然を即日燃やしたというから、かなり捻じ曲がっている。

そんな私情むき出しのことをやっていて、逆によく今まで粛清されなかったものだ。

……もしかすると、シンラが庇っていてくれた、とか?

まさか、な。

「あいつとは孤児として共に過ごした仲でな。かつて面倒を見ていた者が特別になっていく様に、オレは 妬心(としん) を隠せなかった」

ここは素直に認める。

否定しても嘘くさくなるからだ。

「しかし、先日の決闘で考えが変わった」

と、こう繋げる。

「あの日、ですか?」

コキューリアが目を瞬かせる。

オレは深く頷く。

「オレはシンラへの嫉妬心から努力した。それが実を結び、究極魔法会得へと至った。そして、『氷の番』のコキューリアに認められるほどの力を手にしたのだ」

大嘘である。

グレンの人格がイイジママサタカに切り替わっただけのことだ。

コキューリアは自分の頬に手をあて、首を横に振る、。

「そんな、わたくしなどグレン殿の深淵なるお考えに気づくこともできなかった哀れな性奴隷に過ぎません」

それやめてくれないだろうか。

言われる度にドキッとするのだ。

ここのところ、彼女は性奴隷をネタに昇華し始めていた。

よいことなのか悪いことなのかわからない。

反応に困るのだけは確かだ。

「……ともかく、俺は気づいたのだ。奴も同じだったのやもしれぬ、と。奴もまた、オレに守られるだけだった悔しさを抱え、魔王様に拾われて以降、血の滲む努力を重ねたのではないかと、な」

こう繋げれば、自然な流れではなかろうか。

「グレン殿……立派なお考えです」

コキューリアは感動している。

「あぁ! いつか理解してくれる日が来ると信じていました兄さん!!!」

いきなり執務室の扉が開いたと思うと、乱入者はオレに向かって飛び込んできた。

一瞬迎撃体制をとるオレとコキューリアだったが、寸前で思いとどまる。

知り合いだったからだ。

というか、シンラだった。

今まさに話題に出ていた、弟分だ。