軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話◇火葬

「て、テメッ、テメェ……! どういうことだ! なんでテメェが、聖剣を使ってやがる!」

ゼニスが怒りで顔を真っ赤にして何やら喚いているが、答えるつもりはない。

「これから先、貴様が死ぬまでの短い間に、貴様が何かを得ることはない」

「あぁ!?」

「疑問への答えも、勝利も、貴様のような下衆には過ぎた代物だ。苦しんで死ぬがいい」

「……ぶっ殺してやる」

「こちらのセリフだ」

ゼニスの今の姿には見覚えがある。

原作ではずっと先の出来事の筈だが、彼は『喰った相手を取り込む魔剣』に飲み込まれてしまう。

今の奴は、その時に見た挿絵と同じ姿をしていた。

原作においては、リットを追放した落ちぶれたあと、逆恨みでリットを襲撃。

返り討ちにされたことで聖剣に見放され、逆にリットが聖剣に選ばれる。

それでもリットへの怒りを捨てられないゼニスに、正体不明の謎の男が魔剣を差し出すのだ。

まったく不思議なものだ。

原作と違う展開を目指しているのに、似た出来事に遭遇している。

いや、今はどうでもいい。

先程斬った左手から黒い粘液のようなものが伸び、傷口と繋がる。粘液は傷口に吸い込まれるようにして同化。ほどなくして腕は癒着した。

「オレは死なないんだよ。どう殺すんだ、あぁ!?」

ゼニスが切りかかってくる。大ぶりだが、凄まじい速度だ。

聖剣を構え、斬撃を受け流す。

それを何度か繰り返すと、奴がニヤリと笑った。

次の瞬間、魔剣に変化が生じる。獣が口を広げるように姿を変え、こちらを噛みちぎらんを牙を向いた。

「テメェはどんな味がすんだぁ!?」

「言っただろう。貴様は何も得られない」

見え見えの攻撃を余裕を持って躱し、相手に出来た隙をついて魔剣を叩き切る。

「ぐぁッ……!? 無駄だっつってんだろうが……!」

生きた魔剣と化したゼニスにとって、魔剣を斬られるのは身を斬られるのと同じ。

再生するにしても激痛が走るようだ。

「訂正しよう。貴様が得るものが一つだけある」

「死ね!」

「理解だ」

「意味のわからねぇことを――」

「『 灰燼不帰(ことごとくもあえがれ) 』」

ゼニスが燃え上がる。

敵の魔力を炎へと変える魔法。

これはそもそも、敵が場に出した魔力よりも多くの魔力を持っていなければ、扱うことの出来ない魔法だ。

また、生き物が体内に留めている魔力を燃やすことは出来ない。

そうでなければ、問答無用で術者を燃やせる魔法、ということになってしまう。

魔法は強力だが、無法ではない。

オレは今、ゼニスを優に超える魔力を持っている。

そして魔剣に飲み込まれたゼニスは、いかに生前の精神を完璧に再現していようと、死人には変わりなく。

言ってしまえば、受け答えをする魔剣でしかない。

燃やすのはそう難しくない。

「がぁあああああああああ!?」

「貴様は既に死んでいる。貴様はただ、魔剣に喰われたことにも気づかぬ、かつてゼニスだった何かだ。貴様はオレに復讐を果たすことはできない。コキューリアは助かるし、今回も勝つのはオレだ」

「あ、あ、あ、ふ、ざ、あ、く、そ……! れじぃなぁ! ころせ、こいつ、ころせ!」

「……お断りよ」

「あ!?」

「あぁ、こやつらに嵌めた『聖錠』なる魔法具なら、貴様を最初に斬るのと同時に燃やしてある」

これも原作に登場する魔法アイテムだった。

装着された相手は、神が認めし正しき行いを遂行する為に必要ならば、どんな命令にも逆らえなくなる。

「……!? てめっ、う、うら、裏切んのか!?」

「ふざけないで! あの男とあんたが、私たちに何をしたか分かっているの!?」

レジーナを含む仲間たちは、ゼニスに愛想が尽きたようだ。

リットさえも、俺を止めない。

「じるが……! どいつもごいづも、お、俺に、俺に従えばいいんだ! 俺が、世界を救う勇者なんだから!」

「……ゼニスさん。世界とは人と人の集まりです。人の道を外れ、同じ軍の人たちさえも手に掛け、仲間さえ道具扱いする人が勇者だとは、僕は思えません」

「だまれカス付与士が! くそ、くそ、なんで治らねぇんだ! なんで消えねぇんだよ!」

「再生は魔剣の機能に過ぎん。魔剣は生命体からしか魔力を吸収出来ない。そして、貴様がオレやコキューリアを喰らうことは叶わない。そろそろ理解出来たか? これ以上魔力を吸収出来ぬお前は、蓄えた魔力が尽きたその瞬間に死ぬ。どうだ? 剣風情には難しい説明だったか?」

最早、それはゼニスの姿を象ることもできないようだった。

黒く蠢く人影めいた何かが、断末魔のようなものを上げながら、燃えている。

「お、れ、ゆう……おか、し……かつ……ぜった……」

「そもそもがおかしな話だ。勇者だから強いのではない。勇ましき者を勇者というのだ。最初から、貴様は相応しくなかった」

「く、そ、や、ろ……」

「決着はついたが、死ぬのはもう少しあとでもいいぞ。コキューリアのオーダーだ。一秒でも長く苦しんでから、息絶えてくれ」

「……てめぇも、道連れだ、クソが……!」

ゼニスは己の半身を剣に変え、燃え上がりながらこちらに迫る。

「油断じだな、ゴミが……!」

舌も焼かれているので、先程からゼニスの声が聞き取りづらくてしょうがない。

「油断、と言いたかったのか?」

ミュークルがかけてくれた結界魔法が、透明な円盾となって剣を弾く。

「な……!?」

「言ったろう。何も得られないと」

避けようと思えば避けられた。

だが、当たる筈の魔法を防がれた方が衝撃が大きいだろう。

ミュークルの魔法を信じていたというのもあるが、最後の最後まで絶望を押し付けてやりたいという思いがあった。

「……ぐぞ、ごみがす、やろう」

「さらばだ、ゼニスよ。地獄の炎が、オレの魔法よりも熱くないとよいな?」

結局、ゼニスはそれから三十秒ほどたったところで、完全に灰と消えた。

風が吹き、その灰も攫われて消える。

あとには魔力を失った魔剣だけが残された。

「……このようなものは、ない方がいいな」

俺は聖剣を構え、魔剣に突き下ろす。

魔剣が砕け散った。

「……魔剣は砕け、ゼニスは死んだ。お前達はどうする」

俺はリットに言う。

「……今回の件、手を回したのは教会の者です」

他のパーティーメンバーが驚いたような顔をした。

仮にも敵であるオレに、情報提供まがいのことをしたからだろう。

「故に、貴様らに責はないと?」

俺は殺意を滲ませて語りかける。

「ま、待って、コキューリアに癒しの魔法をかけるわ。斬られた腕の腐敗も止められるから、サクヤリネイルに診てもらうまで、もたせることが出来るわよ」

「……だから見逃せと?」

正直、誰よりも自分に憤っていた。

自分が上手く生き残る為に、ゼニスはまだ使えると判断したが、当たり前のように俺以外の罪なき同胞が傷つけられる可能性もあった。

実際、今回はコキューリアが腕を失った。

サクヤリネイルならば癒せるというのは、結果論だ。

このまま勇者パーティーを始末した方が、同胞の安全の為には――。

「いけません、グレン殿……」

コキューリアの声に、俺はすぐさま駆け寄る。

「大丈夫か!?」

「私のことで、判断を誤ってはなりません。本当の貴方は、優しい魔人なのですから」

真っ白な顔で、それでも微笑むコキューリアの言葉に、俺はハッとする。

ゼニスを殺めたことによって、俺の選択肢に『殺人』が加わってしまった。

誰かに命令するのとは、また違う。

自らが手を汚すことを当たり前になり、他者の命を軽く扱うようになってしまったら、オレはきっと『かつてイイジママサタカだった者』としての強みを失ってしまう。

そしていずれ、原作のグレンと同じような存在になってしまうかもしれない。

それでは意味がないのだ。

「……レジーナ、治療を頼む」

胸の内に渦巻いていた激情を押し殺し、そう頼む。

「えぇ、任せて頂戴」

俺は聖剣を鞘に収め、勇者パーティーの面々を見回した。

「お前達は殺さない。だが帰すわけにもいかん」

「……どうするんですか?」

「我が領にお招きしよう」