軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 地下侵攻

「──眠りなさい!」

私が腕を振るうと、パジャマ・アーマーからピンク色の波動が放たれた。

『強制安眠ミスト(ラベンダーの香り)』だ。

吸い込めば、ドラゴンですら三日三晩起きない強力な睡眠導入魔法。

ミストが生体ゴーレムの群れを包み込む。

バタバタと倒れるはずだ。

……しかし。

ザッ、ザッ、ザッ。

霧の中から現れた黒い兵士たちは、止まらなかった。

揺らぐことも、あくび一つすることもなく、ただ機械的に突っ込んでくる。

「……嘘でしょ?」

私は目を見開いた。

効かない?

いや、生理機能としては効いているはずだ。動きが僅かに鈍っている。

けれど、彼らの脳に埋め込まれた命令チップが、「眠気」という信号を強制的にシャットアウトしているのだ。

「無駄だと言ったろう」

ザガンが嘲笑う。

「我が兵士に『休息』という概念はない。彼らは燃料が尽きるまで、あるいは完全に破壊されるまで稼働し続ける!」

ダダダッ!

ゴーレムたちが一斉射撃を開始する。

私のパジャマ結界が弾丸を弾くが、衝撃までは消せない。

「くっ……数が多い!」

クラウスが氷の壁で応戦するが、次から次へと湧いてくる黒い波に押されている。

このままでは、私の大事な庭が更地になってしまう。

「クラウス! 場所を変えます!」

「どこへ!?」

「地下よ! あそこなら広さがあるし、私の家を壊される心配もない!」

私はドリルで開けた大穴を指差した。

逃げ込むのではない。誘導するのだ。

「よし、乗れ!」

クラウスが私を抱きかかえ、穴へと飛び込んだ。

重力制御で滑り落ちる。

直後、頭上からザガンと手下たちが雪崩れ込んでくる気配がした。

再び、地下のオフィスフロア。

蛍光灯がチカチカと明滅する広大な空間に、私たちは着地した。

すぐに、黒い雨のようにゴーレムたちが降ってくる。

着地の衝撃で足が折れた個体もいるが、彼らは折れた足を引きずりながら、無言で銃口を向けてきた。

「本当に……気味が悪いわね」

私は嫌悪感で眉をひそめた。

ここにあるミイラたちと同じだ。

死んでもなお、システムに縛り付けられている。

「迎え撃つぞ!」

クラウスが杖を振るう。

『 氷結地獄(コキュートス) 』。

極低温の吹雪がゴーレムたちを凍らせ、動きを封じる。

だが、ザガンが突っ込んできた。

彼は凍りついた部下を踏み台にして、砲弾のような速度で迫る。

「 温(ぬ) るい!」

ドゴォォォン!

ザガンの拳が、クラウスの防御障壁を粉砕した。

「ぐぅっ……!」

クラウスが吹き飛ばされ、デスクの山に突っ込む。

書類が舞い散る。

「クラウス!」

私が駆け寄ろうとすると、ゴーレムたちが進路を塞いだ。

私は焦った。

いつもなら、「マッサージ」や「温泉」で相手を骨抜きにできる。

でも、こいつらには「快楽」を感じる神経がない。

ただの肉の壁だ。

「どきなさい!」

私は『超振動肩たたきアーム』を召喚し、ゴーレムを殴り飛ばした。

バキボキッ!

骨が砕ける嫌な感触。

それでも、彼らは私の足にしがみついてくる。

「離して! 気持ち悪い!」

物理的には勝てる。

でも、精神的に削られる。

こいつらはゾンビだ。倒しても倒しても、終わらない残業のように湧いてくる。

「終わりだ、 管理者(マスター) !」

ザガンがクラウスを踏み越え、私に向かって跳躍した。

その腕が異形に変形する。

機械化された爪が、私のパジャマ・アーマーを引き裂こうと迫る。

反応できない。

そう思った瞬間。

ドスッ!

ザガンの横っ腹に、氷の槍が突き刺さった。

「がっ……!?」

ザガンが体勢を崩し、私の横を通り過ぎて床に転がる。

「……私の妻に、触れるな」

瓦礫の中から、クラウスが立ち上がっていた。

額から血が流れている。

片腕がだらりと下がっている。脱臼しているのかもしれない。

それでも、彼の瞳は青く燃えていた。

「クラウス! 怪我が……!」

「かすり傷だ。……それよりリリアナ、気づいているか?」

彼は荒い息を吐きながら、私に背を向け、敵の前に立ちはだかった。

「こいつら(ハードウェア)をいくら壊してもキリがない。兵士たちの脳には、命令が焼き付いている。……止めるには、大元を断つしかない」

ハッとした。

そうだ。

彼らはシステムの一部だ。

端末を破壊しても、サーバーが稼働している限り、新しい命令が送られ続ける。

この遺跡の管理者権限。

そして、ドラクマ軍の生体ゴーレムの制御コード。

それらは根底で繋がっているはずだ。

どちらも「アルカディア文明」の技術なのだから。

「……制御室」

私は奥にある巨大な扉を見た。

あそこに、この遺跡の中枢『マザー』がいる。

彼女をハッキングして、システムごと書き換えれば──。

「行け、リリアナ!」

クラウスが叫んだ。

「こいつらは私が引き受ける! 君は君の 得意分野(デスクワーク) で、このふざけたブラック企業を倒産させてこい!」

「でも、貴方が……!」

「信じろ! 私は帝国宰相だぞ? この程度の暴徒、あしらえなくてどうする!」

彼は血のついた唇で、不敵に笑ってみせた。

無理をしているのは明白だ。

でも、その背中は頼もしく、何より「行ってくれ」と訴えていた。

私は拳を握りしめた。

迷っている時間はない。

私が迷えば、彼が死ぬ。

「……定時までには片付けます! 待っていて!」

私は踵を返し、制御室へと走り出した。

「逃がすか!」

ザガンが起き上がり、私を追おうとする。

だが、その前に氷の壁が立ちはだかった。

「お前の相手は私だ、将軍」

背後で、激しい衝突音が響く。

私は振り返らなかった。

今はただ、走る。

このパジャマは走るために作られていないけれど、今は全力疾走だ。

待っていなさい、マザー。

そしてザガン。

私の安眠を邪魔し、私の夫を傷つけた罪。

システムごと「 初期化(フォーマット) 」して償わせてやるわ!