軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 軍靴の足音

「……貴様、クビよ」

私はドリル(安眠号)の操縦席で、冷たく言い放った。

目の前で、巨体を震わせていた『 人事部長(ジェノサイド・ゴーレム) 』が、ガクンと膝をつく。

『ふ、不当解雇……です……。労働組合に……提訴……し……』

ブツン。

赤い瞳の光が消え、巨大な骨の塊は沈黙した。

私が管理権限をハッキングし、彼のステータスを「懲戒免職」に書き換えた結果だ。

物理で殴るより、社会的に抹殺するほうが早い。

「ふぅ……。とりあえず、これで静かになったわね」

私は額の汗を拭った。

時刻はもう夜明け近いだろう。

徹夜だ。最悪だ。

肌荒れの原因になる前に、地上に戻って泥パックをして寝なければ。

「リリアナ、見事だ。だが、急ごう」

隣のクラウスが、険しい顔で天井(地上の方向)を見上げている。

「地上の監視タレットからアラートが来ている。……どうやら、客人は地下の亡霊だけではないらしい」

ドリルで垂直トンネルを上昇し、私たちは地上へと帰還した。

庭の芝生に降り立った瞬間、私は思わず目を細めた。

眩しい。

朝日が昇っている──いや、違う。

「……何よ、あれ」

空が暗い。

太陽を遮るように、無数の巨大な影が浮かんでいるのだ。

鉄の装甲に覆われた、無骨な飛行船の群れ。

その数、十隻以上。

船腹には、赤と黒の剣を模した紋章が描かれている。

「ドラクマ公国軍……!」

クラウスが忌々しげに呟いた。

隣国の軍事国家。

国民皆兵を掲げ、周辺国との紛争が絶えない戦闘狂の国だ。

ブォォォォン……。

旗艦と思われる一番大きな船から、不快なほど大きな音が響いた。拡声魔法だ。

『告げる! 我はドラクマ公国軍総司令官、ザガンである!』

低い、腹の底に響くような声。

傲慢さと暴力性を煮詰めたような声色が、空気を震わせる。

『その地下に眠る古代遺跡は、我が国の正当なる遺産である! 帝国の小娘よ、直ちに退去し、管理権を譲渡せよ!』

開口一番、これだ。

挨拶もなしに「家をよこせ」とは、強盗のほうがまだ愛想がいい。

「……はぁ。また面倒なのが来た」

私はパジャマのまま、腕を組んだ。

聖女の次は将軍か。

私の安眠ライフは、なぜこうも全世界から狙われるのか。

「リリアナ、下がっていろ。ここは私が対応する」

クラウスが一歩前へ出た。

彼は懐から通信機を取り出し、外部スピーカーに接続した。

その背中から放たれるのは、帝国宰相としての威厳ある覇気だ。

「こちらはガレリア帝国宰相、クラウス・フォン・ガレリアだ! 貴軍の行為は明白な領空侵犯である! 直ちに撤収せよ! さもなくば、帝国への宣戦布告とみなす!」

正論だ。

国際法に照らせば、彼らの行動はアウトだ。

だが。

『ふん、帝国宰相か。口だけの文官風情が』

ザガン将軍は鼻で笑った。

『宣戦布告? 構わんよ。我々は力が全てだ。弱者が持つ宝は、強者が有効活用してやるのが慈悲というもの』

話が通じない。

論理や法ではなく、暴力という言語しか持たない相手だ。

『交渉決裂だ。……総員、降下用意!』

「なっ……!?」

クラウスが目を見開く。

飛行船の底部ハッチが開き、無数の黒い点がバラバラと投下された。

パラシュートはない。

人間サイズの物体が、自由落下で降ってくる。

ヒュルルルル……ドサッ! グシャッ!

鈍い音が庭中に響いた。

普通なら即死だ。

だが。

ギギ……ガガ……。

地面に叩きつけられた「それら」は、あり得ない角度に曲がった手足を強引に戻し、ゆらりと立ち上がった。

「……え?」

私は息を呑んだ。

人だ。

全身を黒い拘束具のようなスーツで覆い、顔にはガスマスク。

手には銃剣が縫い付けられている。

彼らは足が折れて骨が飛び出していても、悲鳴一つ上げない。

ただ機械のように、私とクラウスに向かって銃口を向けてきた。

「生体ゴーレム……!」

クラウスが呻くように言った。

「捕虜や重罪人の脳をいじり、痛覚と恐怖心を切除した兵士だ。……ドラクマめ、ここまで堕ちたか」

痛みを感じない兵士。

死ぬまで止まらない、肉の傀儡。

ゾッとした。

地下の遺跡で見た、死ぬまで働かされたミイラたち。

あれと同じだ。

人間を「部品」として扱い、使い潰す思想。

「攻撃開始!」

ザガンの命令と共に、生体ゴーレムたちが一斉に駆け出した。

速い。

肉体の限界リミッターを外した動きだ。

「迎撃システム、起動!」

私は指を鳴らした。

庭に設置された自動タレットが火を吹く。

ダダダダダッ!

魔力弾がゴーレムたちを撃ち抜く。

腕が飛び、胴体に穴が開く。

普通の兵士なら、一発で戦意喪失するダメージだ。

だが、彼らは止まらない。

腕がなくなれば体当たりし、足がなくなれば這ってくる。

痛みによるブレーキがないのだ。

「……気味が悪い」

私は本能的な嫌悪感を覚えた。

聖女セラフィナの時は、まだ「人間」相手だった。

彼女には感情があり、痛みがあり、対話の余地があった。

でも、こいつらは違う。

ただの「動く肉塊」だ。

私の大嫌いな、命を冒涜するシステムの具現化だ。

「リリアナ、屋敷へ入れ! 結界を張れ!」

クラウスが氷の壁を作り出し、敵の進撃を阻む。

だが、ゴーレムたちは氷壁に爪を立て、己の指が折れるのも構わずに登ってくる。

「……いいえ、クラウス」

私は逃げなかった。

パジャマのポケットに手を突っ込み、上空の旗艦を睨みつけた。

「私の庭を汚し、私の睡眠を妨害し、あまつさえこんな悪趣味な人形を撒き散らすなんて」

私の周りに、青白い魔力が渦巻く。

地下で「ブラック企業」を見た時と同じ、いやそれ以上の怒り。

「許さない。……絶対に、 定時(ていじ) で帰してやるもんか」

私は覚悟を決めた。

このふざけた軍隊を、一兵残らず「 更生(リフォーム) 」してやる。

私の快適なスローライフを守るために、徹底的にやってやるわ。

「クラウス、私の背中を守って。……少し、本気で掃除するわよ」