軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

175.地震

帝都、宮殿の中。

父上が崩御されたあと、そのまま引き継いだ執務室の中。

俺は第一宰相ドンと向き合っていた。

ドンは書類を手にして、それを読みあげて俺に報告した。

「以上が今年の騎士選抜の決勝メンバーです」

「うむ、ジェシカはなんといっている」

「庶妃様は『全力を尽くし、陛下のための人材選びに励みます』とのことでございます」

「あいつらしいな。肩の力を抜いて自分の――いや、それは余が自分で伝えよう」

俺はふっと笑った。

庶妃ジェシカ。

俺の妃でありながら軍務にも携わっている女で、その関係で今年の騎士選抜の選考官をやらせている。

肩を抜いて好きにしろと伝えさせようとしたが、それはどこか呼びつけたときに直接言ってやろうと思った。

「その庶妃様ですが、別件での提案書を預かりました」

「提案書?」

「はっ、まずは概要を申し上げます。騎士選抜と同様の『妃選抜』のようなものを提案してこられました」

「妃選抜?」

「ここからが庶妃様のお言葉です。騎士選抜は陛下の寛大なる御心で女でも実力を評価してもらえるようになりました、そこで騎士ではない、別種の才をもつ女にも評価の場を与えて頂きたい。とのことでございました」

「話は分かった。理想は認める、仕組み次第だから練り上げたものを見せろと伝えろ」

「御意……さすが陛下でございます」

「うん?」

いきなりなんだ? とドンをみた。

「庶妃様とはいえ、政務でのご命令は いつも(、、、) 私経由なのが本当におすごいです」

「当然のけじめだ」

「法に厳格な陛下ならではでございますな。さすが――」

「それよりも――」

次の話を、と言った瞬間。

俺もドンも同時に異変に気づいて言葉がとまった。

ドンはきょろきょろまわりをみて、俺は天井を見あげた。

数秒ほど止まっただろうか、その後一緒に――。

「「揺れてる?」」

といった。

地震だった。

執務室の書類棚が音をたてて揺れ出すほどの地震だ。

最初はゆっくりとした揺れだったが、それがやけに長く続いた後――ドン!

爆発的に揺れ出した。

「陛下!」

「慌てるな! 自分の身を守れ!」

俺はドンにそう命じた。

ドンはその場で「カメ」のように体を丸めて、俺は執務机に手をついて立ち上がった。

そのまま天井を見あげる。

普段は皇帝の執務室だからということもあって、この部屋のまわりで私語をするものがいなくて部屋のそとは静かなものだが、今ははっきりといろんな悲鳴がきこえてきた。

揺れていると天井から瓦が落ちてきた、俺に向かってまっすぐ落ちてきた――が。

それは俺に届く前に業火に焼かれて、跡形もないくらい溶けてなくなった。

地震は実に一分近く揺れて、その後緩やかに収まっていった。

「陛下! ご無事でございますか!?」

立ち上がったドンが慌てて聞いてきた。

「それよりも状況把握だ、急げ」

「は、はい!」

俺に命じられたドンは慌てて外に走っていき、手当たり次第に宦官を捕まえては、命令を矢継ぎ早に飛ばしていった。

二時間後、同じ執務室の中。

ドンとエヴリン、今現在宮殿の中にいる二人の宰相が揃って俺の目の前にいた。

ドンが書類の束をもって俺に報告した。

「各地からの報告をまとめました。現状エンリル州の州都がもっとも被害の報告が大きく、州都のみで『倒壊が千に迫る勢い』とのこと」

「こちらが第一報の被害を書き込んだ地図でございます」

ドンの報告を引き継ぐように、エヴリンが執務机の上に乗る程度のサイズの地図をだした。

地図にはエヴリンの言葉通り、被害と思われるいろんな数字が書き込まれていた。

それを見ると――。

「エンリルを中心に円状にひろがっているな」

「はい、従って震源地はほぼエンリル州で間違いないかと思います」

「うむ」

「すごいです陛下」

「はい! 地震から半日足らずで各地の状況を把握出来るなんて。陛下がもたらした有線逓信のたまものです!」

二人はそういい、俺もそう思った。

有線逓信、早馬よりも数段も早い連絡手段はこういう自然災害の時にこそ威力を発揮する。

今まではまとめるのに数日はかかった、だがこうして数時間で――少なくとも震源地が分かる程度のまとめが出来るのなら対処も直ぐにできる。

フンババの糸はこの程度の天災にもやられなかったというのも大きい。

俺は地図を見つめながら考えた。

「エンリルは確か――」

いいながら顔をあげて二人を見る。

ドンが俺の質問に答えた。

「はっ、第二十四親王、ジェレミー様が封地いりなさっております」

「ジェレミーか……」

ジェレミー・アララート。

先帝の二十四番目の息子で、俺の長男セムよりも年下の弟になる。

そのジェレミーが少し前からエンリルに封地いりしていたが――タイミングが悪かったなと思った。

「ジェレミーの幕僚は優秀だったはずだ、基本は任せよう。ドン、帝都から貯蔵している食料を送ってやれ。エンリルは確か気候的に食糧の貯蔵量を上げられなかった地域だったはずだ」

「御意」

「国庫から金を確保しておけ。千に迫るほどの倒壊なら今頃火災もおきているはず。再建の建材が大量に必要になる」

「はっ」

「恐れながら陛下」

エヴリンが声を上げた。

「なんだ?」

「国庫金をエンリルまで輸送すると輸送費もかかります。ここは商人をつかって替え札と帳簿の操作でやった方が良いのではありませんか?」

エヴリンのいう事には一理がある。

「大金」というのはほとんどが金貨だ。

そして金貨ほど重いものを大量に輸送するとなると、輸送につかう馬と馬車、運ぶ人間に護衛する人間など、とにかく輸送するだけでも金がかかる。

その輸送費を節約するために、近くの大商人とくんで、将来帝都に運ぶ金――例えば税金の免除を条件に、文書一枚で大金を現地から調達する方法がある。

それは確かに節約になるのだが。

「おそらくかなりの災害になる。民が恐慌に陥るかもしれん、そこに帝都から支援が見える形でいった方が民も安心する」

「あっ……」

「民心の安定を買えるのなら多少の輸送費はやすいものだ」

「すごいです陛下! そこまでは思いつきませんでした」

エヴリンは感動した表情で、目を輝かせた。

「恐れながら申し上げます、陛下」

「今度はなんだ?」

ドンの方に視線を向けた。

ドンは言いにくそうな表情をしてから、重い口を開けていってきた。

「もうすぐ陛下の誕生――」

「そんなのはどうでもいい。余が生まれた日など災害の前では瑣事にすぎん」

「失礼致しました」

「地震だ、食糧は直ぐにはたりなくならん。見せ金の方をまず運ばせろ」

「御意」

「ならいけ。エヴリンは残れ」

「はい」

ドンはそういい、一度頭を下げてから執務室をでた。

エヴリンはそのまま残って、俺の指示をまった。

「どちらも急ぎの話ではない、第四宰相」

「はい」

応じつつも、「だったら?」という疑問のこもった眼差しで見つめ返してくるエヴリン。

「食糧の貯蔵に関してだ。貯蔵の技術の開発、それと制度面のやり方。両方から案をだせ。目安は半年だ」

「かしこまりました」

「頼んだ。余の落ち度だ、災害が起きてようやく食糧の貯蔵がむずかしい土地の弱点に気づくとはな」

「いえ、陛下はすごいです。このような時でも動じずに先まで見据える動きをなさる。まさに中枢を総べる皇帝の鑑でございます」

「余震の状況もまとめろ。次は半日後でいい」

「はい」

一通り命令したあと。エヴリンもどんと同じように、俺の命令を遂行するために執務室から出て行った。

それと入れ替わりのように、一人の宦官がはいってきた。

「陛下、皇太后様からの使いの者が見えました」

「母上の?」

「はっ、落ち着いたら顔を見せて下さい。とのことです」

「直ぐに行くと伝えろ」

「御意」

宦官が執務室をでた。

そこで余震がまた来て、また瓦が一枚落ちてきた。

今度は離れた所に落ちて、地面におちて粉々に砕け散った。

母上――皇太后のところは大丈夫なのかと、俺は執務室をでてそこにむかって急いだ。