軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174.戦略ノア

興奮しているエヴリンをよそに、俺は地図と有線逓信を交互に見比べた。

「どうかなさいましたか?」

そんな俺の様子に気づいたエヴリンが聞いてきた。

「うむ? 有線逓信の事でな、ここ最近よく考えているものがある」

「何をでございますか?」

「あれは今、文章を送っている」

「はい」

「しかし工夫すれば、理論上は絵も送れるのだ」

「まさか!?」

エヴリンは驚愕した。

それもそのはず。

文章おく圧倒的な速度で離れた地に送れるだけでとんでもない技術だし、帝国が他に圧倒的な差をつける技術だ。

それが文章だけでなく絵も送れる、それもかなり断定的な口調だ。

そうと聞けば驚愕するのも当然だ。

「理論上の話だ。実現、いや実用性は今の所ない」

「どういう事でしょう?」

俺は執務机の方にもどった、エヴリンもついてきた。

ペンと紙をとって、紙の上に線を引いて、マス目を書いていく。

縦と横の線を交互に引いた。

「できた。これを――仮に方眼紙とでも呼ぼうか」

「方眼紙……」

「ざっと縦横ともに10、合わせて100個のマス目がある」

「はい」

「これに点描の要領で……」

俺はそういいながら、即席でマス目を引いた方眼紙のマス目をぬりつぶしていった。

「これは……花、でございますか?」

「そう、花だ。100個のマスに点描の要領で書いた花だ。これを――」

そういって、天幕の隅っこにある有線逓信に視線を向ける。

「有線逓信はフンババの糸を使って、黒と白の組み合わせで暗号を送っている。当然、マス目の黒と白をそのまま送れる。マス目をあらかじめ決めておいて、左上から右下に順に黒と白を送っていけば――」

「逓信で点描の絵が送れる!」

「そういうことだ」

エヴリンが理解して、俺は頷いた。

実際に絵も送れるという事を理解したエヴリンは目を輝かせた。

「すごいです陛下! 絵も送れるとなるとますます応用の幅が広がります」

「だが実用的ではない」

「え? ど、どうしてですか?」

「いまは縦横ともに10マス、合わせて100マスだ」

「はい」

「これは点描だ。試してみたが、『絵』として実用性がでるのは縦横とも300マス、合わせて9万――10万弱回送らねばならない」

「じゅ、十万……」

「分かっただろう? 理論上は出来る、が実用性はない」

「そうでございますね……」

「だが完全に捨てるには惜しい――と、逓信の送受信と何か絵が同時に目に入るとついつい考えてしまうのだ」

とは言えあまり見通しは良くないと俺は思う。

数の問題がクリア出来ても、結局は白黒の絵しかおくれないという新しい問題が出てくる。

そこまで解決するのは難しいだろう。

それよりももっと早く送れる方法、もっと逓信網を広げる方法。

これを考えた方が現実的で効果的な話だ。

早くするには――と、考えを切り替えたその時。

「アンガス・ブル。ただいま戻りました」

「はいれ」

応じると、天幕の外から一人の青年将軍が現われた。

彼がはいってくると、ほとんど雑談をしていたエヴリンは道を空けて、自分は天幕の壁際に移動した。

アンガス・ブル。

俺の姉、十四王女アーリーンの夫であり、帝国の将軍の一人だ。

そのアンガスがしっかりとした足取りで天幕の中に入ってきた。

軽く清めてはいるようだが、それでも血の臭いが漂ってくる。

濃厚な血の臭いを、それでも清める余裕があるという事は――。

「勝ったのか?」

「はっ、敵軍潰走しました。しんがりの将が死に物狂いだったため無理には追わずに引き上げてきました」

「それでいい。死兵にまともに付き合ってやる必要はない」

「はっ――それにしてもすごいです陛下」

「うむ? 何がだ」

「陛下のおかげで士気が上がっただけではない、突撃をした後もその陛下がひかえているという絶対的な安心感が兵の間に広まっている。陛下がこうしていらっしゃる限りわが帝国軍は絶対不敗――と、兵らが普遍的に思っております」

俺は「そうか」と頷いた。

――――――――――――

名前:ノア・アララート

帝国皇帝

性別:男

レベル:32/∞

HP SSS 火 SSS

MP SSS 水 SSS

力 SSS 風 SSS

体力 SSS 地 SSS

知性 SSS 光 SSS

精神 SSS 闇 SSS

速さ SSS

器用 SSS

運 SSS

―――――――――――

ちらりと、視界の隅にある自分のステータスに目を向けた。

父上が崩御してから完全に俺の物になった、オールSSSのステータス。

そうなってから、俺は前線に出ることが多くなった。

最近ではほとんどの戦に参加し、常に「初撃」をリヴァイアサンかバハムートで放っている。

「帝国軍には狙い通りの効果が広まっているな。あとは敵対する全ての敵にもこれが広がればよいのだが」

「敵軍に……でございますか?」

不思議そうにするアンガス。

敵軍になにを? と言う顔をしている。

「余は今まさに壮年、前線にでるのはおかしい話ではないから、そうした。それが常に出来るというアピールをしている」

「はっ、さすがでございます」

「自軍にはアンガスが今話したような効果があったが、戦というのは相手が常にいる。敵軍にはどういう効果が生まれる?」

「それは……恐怖、で、ございますか?」

「うむ」

俺は頷いた。

一言でまとめてしまえば確かに恐怖という形になる。

「壮年の皇帝は常に戦場に出てくる、そして常に最前列の兵に痛撃を加えて行く。これを言い換えるとどうなる? 先頭の兵が必ず死ぬという事だ」

「……あ」

アンガスははっとした。

「喜んで死ねる将はそこそこ見つけやすいが、喜んで死ねる兵を常に揃えるのは難しい。尻を叩くことでどうにかなるだろうから、効果は――ふっ、のど元に常に魚の骨を刺しておく程度といったところだろうか」

「それでもあるのと無いのとではかなり違います。敵軍の編成が常に難しくなります。すごいです陛下!」

アンガスは目を輝かせて興奮した――が、一瞬だけで直ぐに興奮が収まった。

「陛下がお一人というのが玉に瑕でございますな。戦線が複数ある場合は――」

「だからの初撃のみ、だ」

「え?」

「初撃のみなら放った後直ぐに違う方面に駆けつける事が可能。常に初撃のみであれば余の足止めも意味をなさぬ」

「あっ……」

「壮年のノア帝がいる限り、先陣は常に一度は壊滅する――という訳だ」

「すごい、すごいです陛下!」

アンガスは更に興奮した。

この日一番の興奮をしていた。

「という訳で余は明朝直ぐに引き上げる。後は任せた」

「はっ! お任せ下さい。ドブさらいは跡形もなく」

「うむ」

アンガスのへんじは頼もしく。

俺は意識を戦から切り替えて、帝都に残してきた政務の方にむけたのだった。