作品タイトル不明
トーマの強みと弱み
「うーん、どうするかな。明日、また話し合おう。夜考えることは、ろくなもんじゃないからな」
バスラはそう言って会議を終えた。
「ここでフォンの件にケリが付けられたら……」
ルナが廊下を歩きながら、そう呟いた。
「物理的に宗教団体を叩きのめすだけではいけないのですね?」
オンがルナを見た。
「あたしたちは自分らしく生きたいだけなんだ。親の因縁とか、選べなかった子ども時代の環境とか、そんなものに縛られたくない」
茶化すことが多いルナが、真面目な顔をしている。
「そうだにゃ。フォンが安心して繭から出て来たいと思える状態にしないと」
サァラは眠そうな目を擦っていた。
俺は四人部屋の扉をそっと開けた。もう眠っているかもしれないと思ったのに、明かりが点いている。
「おっ、話し合いはどうなった?」
談話室であんな話を聞いたら寝ていられないか。
「結論は出なかった。いくつか案が出たけど、明日改めて検討するって」
「そっか」
「……お前ばっかりズルくねぇ?」
向上心が強い人間には、クランマスターの話し合いに呼ばれる姿は妬ましいだろうな。精神的に削られて、しんどいんだけど。
「武力より頭脳労働が評価されてるからだろ。何かいい案があったら、進言するといいよ」
ちょっと嫌味っぽかったかな。自分でも、なんで呼ばれているんだろうとは思う。Bランクの人がいないのに、Cランクの俺たちが参加したんじゃ、面白くないと思われても仕方がない。
だけど、いいことばかりじゃないぞ。予定外の話し合いで風呂の時間が終わってしまい、入り損ねたし。
オンに懐かれたせいもあるかな。彼女が自分の能力を小出しにするのは、こちら側を警戒しているんだろうか。
「場違い感がすごいのに、提案しろと求められるのも緊張するんだぞ」
しまった。拗ねたみたいな口調になってしまった。
「悪い。そうだよな」
素直に謝られた。突っかかるというより、ちょっと愚痴を言いたくなっただけか。
「トーマは『賢者』的な存在だと考えればいい。俺たちは地道にBランク目指していくしかないって」
「ああ、まずは二人部屋を目指そう」
「その後はAランクの個室だな」
「おお! そうだ、そうだ」
同じパーティーの二人は励まし合って、俺はまるで蚊帳の外だ。同室になって数ヶ月経つけれど、仲良くなれた気がしない。
ここで奮起して、いろいろな案を出してくれてもいいんだけどなぁ。考える素振りもせずに、すぐ諦めて放置されるのは悲しいぞ。
「眠っている奴がいるから、声を落とした方がいい」
今さらだが、二人に声をかけた。
もう一人の同室の奴は、布団を頭まで被って丸まっている。完全に眠っているのか、タヌキ寝入りか……。
俺も顔だけ洗って、とっとと寝てしまおう。
深夜の会議室には、バスラとアーデンとオンが残っていた。
「正直な話、岩モグラを倒すだけなら難しくないだろ?」
バスラが声を潜めて、オンに確認する。
「まあ、そうですね。殺すでも、動物使いの命令を上書きして逃走させるでも……だから、宗教団体を襲わせることも可能です」
くつくつとオンが笑う。冒険者としての経験が少ないトーマは、ときどき常識外れのすごいことを言う。動物使いは、動物や魔物の意思を曲げて従わせる。その支配を破り、さらに上書きするなど、圧倒的強者の暴力的な蹂躙に他ならない。
そして、それができる自分をオンは誇らしく思った。
「猫を被るのが上手くなったもんだな。規格ハズレだが『冒険者』の枠に収まっているように見えるよ」
アーデンが強い酒に口を付けた。
「ワイバーンを討伐したあとに、勉強しましたから」
オンは目を細めて、褒め言葉として受け取った。
「このクランに来てから一年ほどは、器物破損の被害がひどかったけどな」
バスラが苦笑いでちゃちゃを入れる。
「これから、その分働かせてもらいますね?」
オンが小首をかしげて、ニコリとかわいい表情を作る。
「そういうのも勉強したのか」
アーデンが片方の口の端を上げ、面白がった。
「羊の皮を被らないと、群れに入れてもらえませんから」
オンは頬に手を当てて、ふふっと笑った。