作品タイトル不明
夜の会議
バスラはノースリーブの貫頭衣を着て現れた。ほんのり酒の匂いがする。寝酒を嗜んでいたのかもしれない。
「相変わらず、夜は早いな」
アーデンがバスラをからかう。
「鳥目なもんでな」
バスラは拳で隠すようにあくびをした。
「で? クランハウスを襲撃する計画があるのか」
バスラが席に着き、緊急会議が始まった。
「妖精族の動物使いが、岩モグラをこのクランの方向に向けて動かしています。角度的に王城ではないですね。
ん? マーキングが……地下にいる捕虜が発信器を持っているのかも?」
会議室にざわめきが広がった。先日、アーデンに絡んできた妖精族のことだ。
屈強な男と魔法使いが立ち上がって出ていった。捕虜をここに連れてくるのか。
「なるほどね。地下を進むのには、方向を指し示すものが必要だわね」
先ほどサァラに嫌われた女冒険者が、頬杖をついた。
「なんか、すまん。警備兵に突き出した方がよかったか」
アーデンはそう言ったが、それを咎めるような空気はなかった。
「どうせ王都方面を目指して来るんだろうから、そう変わらないと思うよ」
獣人はそう言って、鼻の上をかいた。警備兵の詰め所は、クランハウスから徒歩圏内にある。
妖精族はボロボロの状態で引きずられてきた。もう一人では立てないし、よだれを垂らしている。
「しゃべれなくなってんじゃねぇか。やり過ぎだろ」
バスラが眉間にしわを作った。
「いえ、『もうこれ以上吐くことはない』って言った後ですよ。末端の捨て駒で大したことは引き出せませんでした」
捕虜についてきた尋問担当が言い訳をした。
「仕事に趣味を持ち込むな」
「はは、ちょっとばかり興が乗っちまって。すんません」
「こいつに発信器がついているらしいが、わかるか?」
バスラに問いかけられて、尋問担当は首をひねった。
「裸にして調べてますし……。衣服や装飾品は保管してありますけど、魔法使いに魔導具がないかチェックしてもらったっす」
オンがじーっと妖精族を見ている。瞳孔が縦に細くなり、心なしか目がつり上がって見える。
「心臓に術が施されていますね」
「じゃあ、生かしておかない方がよかったか?」
尋問担当が嬉々として尋ねる。
「いいえ。その場合は砕け散ります。微細な欠片まで取り除くのは難しいので、マーキングが人から場所に変わるだけですね」
「えげつないな。妖精族にはよくある戦法なのか?」
バスラがうんざりした口調になる。
「どうでしょう? 愉悦を感じる方に流されるという傾向が強くて、行動原理が読めません。
組織に無私の心で貢献するというのは、宗教団体ならではという気がします」
「あの、こいつをクランの外に連れて行ったら、岩モグラはそっちを目指して来るってことですよね?
したら、オンさんが魔法をぶっ放してもよさそうな、人里離れたところに行って待ち構えるのはどうです?」
何度かオンの訓練に付き合っている魔法使いが、提案した。
それを聞いてオンの目が輝いた。
「訓練の成果を見ていただけたら、嬉しいです!」
バスラが額に手を当てた。
「地形が変わってもいい場所なんて、総裁閣下にご相談しないとならんだろ」
総裁というのは、この共和国の王様のことだ。みんな「国王」と呼んでいるけれど、直に会う機会がある人は違うな。
「襲撃していいなら、岩モグラに宗教団体の拠点を狙わせたい。混乱に乗じてもっと情報を持っているやつを捕まえて、騒動を終わらせたいです」
俺はダメ元で言ってみた。頻繁にちょっかいをかけられて、いい加減うんざりだ。
「お前、たまに過激なこと言うよな」
アーデンがニヤリと笑った。