作品タイトル不明
小さな前進
オンの魔法制御は、魔法使いや職人たちの協力で少しずつ進んでいるようだった。時々、服をボロボロにして帰ってきたり、冒険者ギルドから苦情がきたりしているが、オンは楽しそうに進捗を教えてくれる。
いつしかエドガーがオンの訓練の手配をするようになっていた。指導する魔法使いの手配や訓練に使う入れ物と職人たちとの交渉など。
「僕の待遇がすごく良くなったよ。元々、アーデンの付き人扱いで、お客様として大切にされていたけどね」
エドガーは穏やかに、少し照れくさそうに笑った。
「エドガーさんは有能な人なので当然です。スキル「下ごしらえ」を得る前に、段取りの大切さを教えてくれた、師匠みたいな存在なんですから」
家族から浮いていた俺は、ガルドたち幼なじみが家族と過ごす祭のときなどに、エドガーの手伝いをしていた。他にもそういう子どもがいたが、十二歳で街に出ると、気が効くと可愛がられる人が多かった。
談話室でそんな会話をしていたので、興味を持った人たちが集まってきた。
「トーマのいろいろは、スキルだけじゃないのか? 学んで身につけることができるのなら、パーティーメンバーの一人に学ばせたい」
「それはいい考えだけど、誰がそれを引き受けるのさ。私は嫌だよ」
口には出さなかったが、「面倒くさい」という言葉を飲み込んだ気がする。
「それな。必要だってことは理解できても、先回りして頭を働かせるとか……暴れる方が楽だ」
と、結局、誰一人としてエドガーの弟子になろうとしなかった。
そんなエドガーも、しばらく経つと立派な冒険者になっていた。
「冒険者ギルドの訓練場を借りるのに、冒険者タグを持っている方が便利だったから」
気負いもなく、軽く言うエドガー。気がついたら、Dランク冒険者になっていた。
村の自警団でモンスターと戦っていたから、まるっきり素人というわけでもない。冒険者としても通用することを知って、嬉しそうだった。
ランクという目に見える評価が、エドガーのやる気を引き出したようだ。
「もう少し頑張って、Cランクを目指しちゃおうかな」
ちらりと俺を見て言うので、また一緒に依頼を受けて討伐に行く約束をした。俺もルナたちに同行して、経験を積ませてもらって技術を磨いてきたんだ。子どもの頃の恩返しになるといいな。
ただ、村長の息子なのに、こんなに村を離れていて大丈夫なのだろうか。奥さんと子どもがいたはずだ。
まあ、家庭の事情には首を突っ込まない方がいいだろう。俺だって、触れられたくないし。
ある日、アーデンに妖精族が接触してきたそうだ。
酒場でエドガーと飲んでいたときに、義足の調子はどうだと話しかけてきて、さりげなくフォンのことを聞き出そうとする。
アーデンはその妖精族を酔い潰し、クランに連れてきた。
「尋問部屋に入れて、目覚めたら情報を引き出してくれよ」
そう言って、本人は客室に寝に行ってしまう。
「酒場で聞いたことをまとめました」
エドガーはメモをクランの職員に渡した。
「いつ書いたんですか?」
職員はありがたく受け取りながらも、困惑する。
「僕は、いつでも何でもメモを取っているんですよ。いつかアーデンの武勇伝を書くのが夢なので」
酒でほんのり顔を赤くしたエドガーは、野心をぽろりとこぼした。
騒動の原因を調べておくのも、自衛手段の一つだ。
このクランの中では誰が尋問に適しているか、そんな会話が職員たちの間で交わされた。
尋問の結果が出たのは、数日後だった。背後にいるのはフォンの祖母を名乗る者ではなく、宗教団体であった。
オンやアーデンの不在を狙った襲撃については、犯人の身柄を国に引き渡した後、続報が入ってきていない。あれも宗教関係者だった可能性が高いと、クランの幹部たちは推論した。
その幹部たちの話し合いに、花猫風月は関係者として参加していた。
「国に引き渡した後は、誰が担当になるかで対応が変わる。自分たちだけで調べたい奴と、こっちと協力して捜査をする奴と――。
前回はハズレだったみたいだ。なら、今回のこいつの情報を提供してやる義理はないな」
バスラはそう言って、ニヤリと笑った。
「サークレットの仕掛けの情報も引き出せませんか?」
ルナが問いかけた。
「ああ、そうだな。尋問担当に伝えておこう」
バスラが請け負ってくれて、サークレット問題を解決する糸口が見えてきた。俺たちは顔を見合わせ、静かに喜びを分かち合った。