軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

繭の前で

「サァラは妖精族が繭に籠もっているのが悲しいのですか?」

オンは、情緒を理解できない子どものように問いかけた。

「そうだけど……」

サァラは繭の方を向いたまま答える。

「繭から引きずり出すことはできますよ。ただ、安全にできるか保証はできないのですが」

「どういうこと?」

ルナがオンの顔を凝視する。

「魔族と妖精族は海を挟んで隣り合っています。何度も戦争をして、仲が悪いです。

だから、繭化して身を守ろうとする妖精族を引きずり出す方法を知っています。ただ、それは 打(ぶ) ちのめすためなので、繭を壊された妖精族が無事かどうかはわかりません」

オンはギョッとするような内容を淡々と告げた。そういえば、妖精族は繭を強制的に解くことはできない様子だった。

「じゃあ、しばらくこのままで様子を見た方が良さそうだな。

フォン。この人は、魔族のオンって言うんだ。デッドフロッグを一緒に討伐したんだよ」

繭に手のひらを当てながら、話しかけた。

「よろしくお願いします。魔法の制御ができるようになったら、依頼に同行させてほしいです」

オンは繭に向かって挨拶をした。

ん? 同行するって、仲間になるつもりか?

俺はルナの方を見た。リーダーとして何か聞いているかと思ったが、首を横に振っている。

てっきりこのクラン専属のフリーの冒険者になるんだと思っていたのだが、違うのか?

「それから、サァラが笑っていても泣いていても、フォンの繭の解除には影響しません。

辛い経験をした人は笑ってはいけない、みたいな雰囲気が理解できません。しかも関係者ではない、噂好きの人が言ったりします。それって、気にする必要ありますか?」

オンはすっかり仲間のつもりでいるのか、踏み込んだことを口にした。

サァラが振り返る。目元を赤くしたまま、オンを睨みつけた。

「そんなの、わかってるにゃ」

「えっと、オンはサァラに『罪悪感を持つ必要はない』と慰めたかったのかな?」

かなり意訳だが、そういうことだろう。

「はい、そうです。悪いのは、襲撃してきた妖精族なので」

ああ~、これは本当に悪気がないんだな。

「言っている内容はいいんだけど、言い方に配慮しような?」

俺の横でサァラが眉尻を下げて、困った表情になった。常識を覚える途中の子どもを相手にしているみたいだもんな。

「なぜです?」

オンに何と言ったら通じるだろうか。

「う~ん。『キツいことを言うようだけど』と前置きをするのもいいよ。心の準備をするだけで違うから。

たとえば、いきなり攻撃して致命傷を負ったら二度と心を開いてくれない。今後も付き合っていきたいなら、受け止める構えをするだけの時間を与えるべきだ」

「二度とお話してくれない人……そういうことでしたか。でも、簡潔に分かりやすい方が良くないですか? 言っている内容は同じですよ」

この流れだと、堂々巡りになりかねないな。どう話を持っていけばいい?

「魔族の国がどんなところか知らないが、娯楽や美味しい物が少ないんじゃないか? だからオンはこっち側で暮らしたいんだろう?」

今までの会話から推測したが、たぶん間違ってはいないだろう。オンがうなずくのを確認して、先に進める。

「魔族が劣っているというより、弱肉強食が肯定されている世界だからじゃないかな。弱いけれど素晴らしいものを生み出す人材が、潰されているのかもしれない。

可愛いものとか儚いものとか、馬鹿にされる傾向はないか?」

オンが目だけでなく口まで開けて、まさに驚愕といった顔をした。

グレタばあさんの故郷はオークに占領されて、あっという間にぬいぐるみの文化が廃れた。

それで、力による支配下では文化的な活動が衰退すると仮説を立てた。迎賓館の資料室でいろいろな国の歴史と文化を見て確信した。

余裕がなければ、文化は花開かない。戦乱が続けば、文化の継承は途絶えてしまう。

「クッキーだって可愛い形に胸が躍るだろう? ぬいぐるみだって、元を辿れば毛皮と羽毛だ。

内容が同じでも、表現の仕方で受け取り方が変わってくる」

ちょっと飛躍しているか? まあ、イメージが湧けばいいんだ。

「わかったかもしれません。気をつけます。

あの、これからも指摘してもらえますか? トーマの説明は理解しやすいです」

――なんか、懐かれたかもしれない。

「トーマは細かいから、あたしたちがちょうどいいかもよ」

ルナがからかうように言う。

また「細かい」って言われた。豪快さが賞賛される冒険者の世界で、俺が異端なのはわかってるけどさ。

サァラが尻尾を俺の腕に絡めて、いたずらっ子の顔で笑った。