作品タイトル不明
次の魔法使い
「面白いな。次は儂でええか?」
火の魔法使いのドワーフが名乗りを上げた。
「新しい入れ物をセットしますんで、ちょっとお待ちください」
「あたいがやってやるにゃ」
サァラが手を出してきたので、お願いすることにした。
ドワーフだけでなく、オンにも同時に説明することにした。
「一つ注意点があります。入れ物を火で溶かしたりすると、中の紙は燃えてしまいます」
「おお、そういえばそうだな。さて、どうしたもんかいなぁ」
ドワーフは立派な髭を撫でた。
「素早く、攻撃が当たる面積を狭くするとか……ですかね?」
そういうことができるかをここで確認したい。
「う~む。着弾と同時に消える術式を組み込むか」
ドワーフは髭をしごきながら考えを巡らせている様子。
「あの、出した火魔法を自分に戻すというか、吸収するのはどうです?」
昔、山猫亭の宿泊客に見せてもらったことがある。その人は「猫だまし」と呼んでいた。
「ずいぶんと高度なことを要求するな?」
ドワーフの目つきが鋭くなった。
「え、難しいですか?」
火の魔法使いならできるのかと思って、昔のパーティーで「身につけた方がいい」とアドバイスしたことがあるぞ。
「鎖鎌って、武器があるじゃろ? あれは引き戻して安全に捕まえるのが難しい。
魔法を分解して魔力を体内に戻すのは、それ以上に難しい」
分別のつかない子どもに言い聞かせるように説明された。
「言われて見れば、そうですね。失礼しました」
「まあ、自分の専門外のことはそんなもんじゃろ」
このやりとりを、周囲も真剣に聞いていた。うちのクランに所属していない魔法使いたちがこっそり紛れ込もうとしたようで、揉めているのが視界に入った。
「そこで、儂は秘密兵器を持っている」
ドワーフは腕をぐいっと、力こぶを見せつけるように前に出した。
「この腕輪は特注で、この魔石に火を収納できるんじゃ!」
「おお!」とどよめきが走った。
オンがドワーフの手首を掴み、腕輪に顔を近付ける。
「痛たた。こら、力加減をせんか。儂だから痛いだけですんでいるんだぞ」
「あ、ごめんなさい。でも、そんなすごい物があったら、あたしもコントロールできるかもしれないですよね」
「いや。放つ前の火に細工をして、引き戻す時に魔石に収まる量を計算しないといかん。容量オーバーしたら魔石が割れて、火傷するぞい」
結局は、訓練しないといけないわけだ。
「よく見ておれ」
ドワーフはそう言うと、入れ物に向かって立つ。
「儂は腹で魔力を練る。それを手のひらや指先に移したり、腹と腕で空間を作り大きな火球を作ったりもする」
そう言いながら、指先に火を灯した。
「このまま打てば普通の火球だが、細工をするぞい」
そう言うと、一瞬火が緑色に変わった。
「ほい!」
そのかけ声と共に火球が飛び、カンッと音を立てて戻ってきた。戻る軌道の先に腕輪を掲げ、火球がシュンと吸い込まれる。
すごい! 自然と拍手が出る。
入れ物の方を見ると、表面が焦げて細く煙が上がっている。
「ちょっと確認してきていいですか?」
小走りで入れ物の方に行くと、サァラが目を輝かせている。
「火球が戻っていくの、すごく面白いにゃ」
「びっくりするよな」
そんな話をしながら、入れ物の表面を観察する。当たったところは焦げて、かなり高温になっている。黒焦げの部分に赤くひびが入っている。小さな穴が空いているか、いないか微妙な感じだ。
反対側を恐る恐る指先で触ると、そんなに熱くない。これなら中の紙は無事だろう。
俺はドワーフのところまで戻り、攻撃を再開してもらった。
三発目の攻撃で、煙がもくもくと太くなった。これ以上は攻撃に耐えられそうもないと判断する。
金属製の道具の持ち手に布を巻いて、脆くなった表面を叩いて崩し、中から紙を取りだした。
紙を触ると生暖かい。もう少しで燃えるところだったな。
ともあれ、その紙をドワーフに渡す。彼は紙を指で摘まんで、観客に見せた。
火球を自在に操る様子に興奮した人々は、足を踏みならしてドワーフを讃えた。
「あたしもあの腕輪があったら、できるようになるかもしれません」
オンが期待の眼差しをドワーフに向けた。
そうかもしれないが、ドワーフの特注品……簡単に作ってもらえるものなのだろうか。
後で彼が作ったお店を紹介してもらうとして、その代金はどうしよう? たぶん安くないよなぁ。