作品タイトル不明
三人目の魔法使い
サァラが「あちち」と呟きながら煙が出ている入れ物を外して、新しいものと交換してくれた。
「最後はわたくしですね」
水の魔法を使うエルフが前に出た。
「わたくしの場合は、魔力を練るのではなく、体の隅々まで巡らせます。
そのときに体に彫ってある入れ墨に意識を向けると、魔力がその効果を帯びてゆきます」
そう言いながら、艶のある布でできた手甲をめくって入れ墨を見せてくれる。魔法陣のような模様だ。
「幾何学模様できれいですね」
オンが感想を伝えると、エルフは少しだけ柔らかな表情になった。
「ええ。ただ、エルフに伝わる紋なので、あなた様にも有効かはわかりません」
「いえ、貴重なものを見せていただき、ありがとうございます」
「その台詞は、魔法を見てからいただけますか」
エルフはふっと薄く笑った。
「はい。よろしくお願いします」
オンは素直に頭を下げた。
こうして見ていると、オンは丁寧で腰が低い。魔力の制御さえできるようになれば、引っ張りだこになるだろうな。
エルフは右足を的の方に、左足は外側に開いて立った。弓を引くときの姿勢のようだ。小声で詠唱をすると指先に水が現れ、それが膨らんでいく。
「ヒュイ」という口笛を合図に、水球の一部が伸びて槍のようになり、的に襲いかかる。
ガキンと衝突音がして、周囲に水が飛び散った。
「ぎにゃ!」
サァラに水がかかり、慌てて飛び退いていた。少し離れてから、ぷるぷると震えて水滴を落とす。
「油断したにゃ」
あ、駄目だ。可愛すぎる。水で濡れて体にぴたりと貼り付いた服がエロい。
サァラはそれに気づかず、入れ物を確認するために近づいた。
「引っ掻いたみたいな傷がついてる。でも、気をつけないと中の紙も濡れちゃうかも」
こちらに向かって大きな声で教えてくれた。
「わかりました」
エルフはそう言うと、次の攻撃は、入れ物に当たった後もそのまま直進するように変更した。それならサァラも濡れずにすむ。
表面を削るように攻撃を繰り返し、七発目で手が入るくらいの穴が開いた。
サァラはその入れ物を台から外して、こちらに持ってきた。エルフに穴を向けると、エルフはオンに場所を譲る。
「あたしが取ってもいいのですか?」
「成功したときのイメージができると、やる気が上がるでしょう」
言い方には温度がなく冷たく聞こえるが、内容には思いやりが感じられる。
オンはゆっくり入れ物に手を入れ、紙を取りだした。紙の端が少し濡れている。これくらいなら、文字が消えることはないだろう。
オンは紙を掲げて、すごい、すごいと興奮している。見せられた方も、思わず笑顔になっていく。
「これは白紙だけど、本番は文字が書いてある。滲んで読めなくなったら無効だからな」
俺はにこりと笑って、オンに説明した。
そんな俺を見て、エルフが半眼になって一言……。
「あなた、言っていることが鬼畜だわ」