作品タイトル不明
プレゼンテーション
数日後、クランで一番大きな部屋に人を集めてもらった。
強制ではなく、興味がある人に呼びかけただけ。新参者の俺が何を言い出すのかという興味本位の人も多い。
開始時間の直前にクランマスターのバスラが顔を出したので、冷やかし半分だった人は驚いたようだ。
俺は咳払いをして、説明を始める。
「お集まりいただきまして、ありがとうございます。
早速、『強すぎる魔法使いオンの魔法制御の訓練案』を始めたいと思います」
オンはアーデンの隣に座っていて、ぺこりと頭を下げた。
「オンがこのクランに来た頃は、握力がすごくて皿やカップを壊しまくったと聞きました。それが今では、普通に食事ができています。
物理的な力を制御しないと『美味しいご飯が食べられない』という動機があったからではないでしょうか」
オンの方を見ると、少し頬を染めながらうなずいた。
「そこで、魔力制御をしたいと本気で考える動機として、これを提案します」
俺はルナから借りたぬいぐるみを袋から出した。
「は、はわわわわ~」
オンは目を丸くして、頬に手を当てた。立ち上がってこちらに来ようとするのを、アーデンが腕を掴んで制止する。
「その勢いで抱きしめたら、ぬいぐるみが破けるぞ」
「あ、あ、そんな……」
オンはぬいぐるみとアーデンの顔を何度も見比べ、大きなため息を吐いて、椅子に座り直した。
「……そうですね」
第一関門、突破だ。俺は胸をなで下ろした。オンがぬいぐるみに興味を持たなかったら成立しない案だからな。
会場を見回すと、「あれ、ぬいぐるみじゃん」「誰の?」「私もほしい」とザワザワしている。
トゥルメル領以外でもぬいぐるみの生産が始まったが、まだ順番待ちの状態だ。
「特注のこの入れ物の中に、『ぬいぐるみの引換券』を入れます。オンには魔法でこの入れ物を壊して、無事に引換券を取り出してもらいます。それができたら、ぬいぐるみはオンのものという計画です」
あれ、ルナが泣きそうな顔をしているぞ。あ、説明が悪かったか。
「あ、ぬいぐるみと言っても、これじゃないです。
これから役所にぬいぐるみ購入の申請をして、出来上がる頃には魔力のコントロールができるようになるという予定です」
次はオンに向かって、説明する。
「これは、Aランクの魔法使いが壊せるくらいの強度で作ってもらいました。
今のオンの力加減で攻撃したら、火魔法の場合は消し炭になるでしょう。風魔法なら読めないほど粉々になるし、水魔法なら字が滲んで読めなくなると思います」
オンは納得するしかないようで、「あう~」と唸っている。
冒険者たちの方を見る。
「みなさんにお願いしたいのは、出資です。
現在、ぬいぐるみは百万キンで売り出されています。
一口二十万キンで、オンに討伐依頼への同行を交渉できる『権利』を売ります。同行の確約ではなく、あくまで『交渉する権利』ですのでご注意ください」
交渉権については、事前にオンと相談済みだ。
「先着八名です。
ぬいぐるみ代だけじゃなく、この入れ物の制作費も込みです。たくさん必要になると思うので」
会場がざわつき始めた。それぞれのパーティーで、相談している。
安くはない。だが、見返りとしては魅力的だと思う……。
八組の勇敢なパーティ、どうか名乗り出てくれ。