軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

泥と沼

デッドフロッグは弱っているけれど、まだ生きている。慎重に立ち向かわなければ、こちらが危なくなる。

小山の一番上のデッドフロッグを引きずり下ろすか、下の方を槍で突いていくか……。一匹に対峙している間に、別の個体に襲われる可能性がある。生死がかかってくれば、死に物狂いで抵抗されるかもしれない。

「睡眠薬を焚きましょうか」

相手の動きが鈍くなれば、こちらが有利になる。

「そうだな。みんな鼻を布で覆え。トーマは焚く準備、オンは沼に水を張る。他のやつは、復活して沼から出てくるモンスターがいたら威嚇して押し戻せ」

アーデンがテキパキと指示を出す。

「あ、一人は俺を手伝ってほしいです」

「じゃあ、接近戦のあたいが手伝おっか」

サァラが立候補してくれた。アーデンは投擲で、ルナは剣でモンスターを蹴散らしやすい。

「いや、オンが水を張り終わったらトーマの方に行ってくれ」

とアーデン言うのを、エドガーが遮った。

「僕が手伝った方が良くないか? 戦闘に参加できないんだから」

「お前は小型のボウガンを使えるだろう」

「村の防衛に協力できる程度の腕前だけど」

「それで充分だ」

そんな打ち合わせをしている間にも、ピクピクしていた水生のモンスターの中から動かなくなるものが出始めた。

干上がった沼地はひび割れ、悪臭がすごい。先ほどまでは湿度の高い、ねっとりとした気持ち悪い空気だった。今は、凝縮された攻撃的な悪臭だ。汚染された空気で、目が痛くなる。

鼻を布で覆うと少し軽減されるが、まともに息を吸いたくない。

「では。水を魔法、いきます」

オンが軽い声で宣言した。

どぷん。空中に大きな水の玉が現れた。それが落下して、ばちゃんと大きな音を立てて沼の底ではじけ飛ぶ。汚れを巻き込んだ水しぶきが俺たちに降りかかる。

沼の中央付近にいたモンスターたちは息を吹き返した。それに気付いた周囲のモンスターたちが、水を求めて這っていく。ぶつかったモンスターを攻撃し、息絶えたモンスターを踏み潰し、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

「足りませんでしたね。失礼いたしました」

オンはそう言うと、もう一度水を出した。

ええ? あんな大規模な魔法をもう一度?

あ、さっきの倍以上の……。

「オン! ウォーターボールを下ろすときはゆっくり静かにやれ」

アーデンが怒鳴る。

「え? は? ど、どうやって?」

オンは水を空中に浮かべたまま、困った顔をしている。

フォンがいたら、下から風魔法で落下を防げるのに……。あ、オンは二種類同時に繰り出せるじゃん。

「風魔法を下から当てれば、ゆっくりできるはず。やってみて」と声をかける。

「あ……う、うん」

風魔法が水の玉を揺らす。風圧でかなり周囲に水が飛び散った。だが、水の玉の本体は、沼の縁を越えることなく無事に着水した。あっという間に沼が満たされた。

魚系のモンスターの死骸がプカプカ浮いている。だが、それも水中に引きずり込まれた。生き残ったモンスターの栄養になるのだろう。

……魔力が桁違いだな。

目の前で起きたすごいことに、誰もコメントをしなかった。自分の中で整理するのに、時間がかかりそうだ。

「……えっと、睡眠薬の準備、しますね」

「あ、ああ。俺たちは、攻撃してくるモンスターを警戒しておく」

アーデンがルナたちに指示を出した。エドガーは馬車にボウガンや槍を取りに行った。

うん、混乱したときは、思考を停止して体を動かすのがいいよな。

沼の脇に盛られたデッドフロッグの小山は、まだピクピク動いている。一番下は動かなくなったかもしれない。さすがに圧死したか。

近づきすぎないように気をつけながら、周囲に枯れ枝を三角に組み合わせていく。その中に枯れ草を入れたいが、沼地なので湿った草が多い。立ち枯れた木を探して、かさかさに乾いた葉っぱをむしり取った。指が触れただけで落ちてしまうので、気をつけないといけない。

オンが「ふふふ」と笑っている。

「何かおかしいか?」

「枯れ葉を掴めるようになったのが、嬉しいのです」

「掴めなかった……のか?」

そんなわけないと思いながらも、他に言葉が浮かばない。

「はい。こちらに来たばかりの頃だったら、握りつぶして粉々にしていたと思います」

……わぁ、物騒な回答が来たぞ。つまり、力加減を覚えたと言うことか?

深入りしたくないから、突っ込まずにスルーさせてもらおう。

「人族って、すごいですね。魔法じゃなく、草を加工してこんなのを作ってしまうのですか」

枯れ葉を敷いた上に、睡眠薬を入れた団子を置いた。作戦によっては、デッドフロッグに食べさせようと思っていたんだ。

「俺はつい最近まで魔法を使えなかったから」

王城の魔塔で、ほんの少しだけ魔法が使えるようになった。

指先に小さな炎を灯して、枯れ葉に火を移す。

「わあ、小っちゃい。かわいい」

オンは、たぶん褒め言葉のつもりで言っている。六個作った焚き木に、次々と火を入れた。火が睡眠薬の団子を熱して、煙が立った。

「睡眠薬の準備、できました」

アーデンに大きな声で報告する。

「煙が来ないところまで退避するぞ」

いつの間にか、司令塔はアーデンになっていた。ルナの顔を見たが、特に気にしていないようだ。

俺たちは、馬車のところまで退避した。ちょうど昼飯の時間だ。

エドガーがボウガンを肩にかけて、こちらに来た。

「冒険者、楽しいですね」