作品タイトル不明
ぬいぐるみの真実
夕食は商業ギルドの面々と、グレタ婆さん、フォンとオルドといった顔ぶれだ。
興奮気味の商業ギルド勢とは対照的に、フォンは暗い顔をしている。
オルドは我関せずといったふうで、俺はどうしていいか迷った。
とりあえず話しかけてみるか。
「魔塔の方はどうだった?」
「実験動物にされないよう、主導権を握るのが大変だった」
オルドがため息を吐いて、短く言った。
「後で話す」
早々に会話を切り上げようとするのを感じ、俺は小さくうなずいた。
商業ギルドの方も、壮絶な主導権争いが繰り広げられたらしい。
他の領から「注文が溜まっているなら協力する」と、製法の開示を求められたり。
運搬を引き受けるという大手の商店が圧力をかけてきたり。
王族が外交に使えるから独占したいと言い出したり――。
明日はエリオットにも会議に参加してほしいそうだ。
利益が絡んだ場合の貴族たちは、商業ギルドの後ろ盾を持ってしても太刀打ちできないのだろうか。
「ああ。エリオットさんは明日も来ると言っていましたよ」
商業ギルドの人たちが、一斉にほっとしたのがわかった。
急に食べ出した人もいる。
心配で食欲がなかったのか。商売もたいへんだな。
「今さら言いづらいんだけど……」
グレタ婆さんが気まずそうな顔をした。
「ぬいぐるみは種類によって意味が違うんだが、兎のぬいぐるみは……夜這いの合図なんだよね」
は?
今、なんつった?
誰かが吹き出し、メイドさんが慌てて「大丈夫ですか」と飛んできた。
給仕している従僕も耳をこちらに向けている。
「ほら、兎は多産だし、めでたいだろう?
一角兎の革を扱える器用さ、子どもが好むものを作れる母性本能、そういうもののアピールから始まっているんだ」
そういう考え方はわかる。
家庭的な面を見せて、結婚相手に選んでもらおうというのは、よくある風習だ。
「私らより上の世代にものすごくモテる男がいてね、兎のぬいぐるみをたくさんもらった。
そして、そのぬいぐるみを贈った女の子たちと『いい仲』になったんだよ。
いつの間にか告白のアイテムになって、気がついたら夜這いの許可状のようになっていた」
途中で、ものすごい曲解が入ってないか?
論理の飛躍があったような……。
「そのうち、親が娘にうさぎのぬいぐるみは与えなくなっていって、夜這いの合図として完成された。
だから、隣国で貴族のお嬢さんが持って歩いていると聞いて驚いたよ」
庶民と違って、お貴族様は貞操が大事らしいから……そんな意味だと知っていたら、持ち歩かないよな。
「あのときは養鶏場が潰れるかもしれないという状況だったし、討伐に来てくれない冒険者たちに腹が立っていた。
兎のぬいぐるみをもらえなくて、母親に作ってもらって見栄を張る奴もいた。そういうのは、すごく馬鹿にされたんだ。
だから、屈強な冒険者が知らずにぬいぐるみを抱えていたら、陰で笑ってやろうと思って……。
ちょっと意趣返しというか、こんなに大ごとになると思ってなくてさ」
グレタ婆さんは困ったように、苦笑いする。まるでいたずらがバレた悪ガキのような――。
な、なんじゃ、そりゃ。
「王様が他の国の姫への贈り物に使うとか言い出したから、さすがにマズいんじゃないかと思ったんだけど。
……マズいよね?」
そら、マズいわ。
今から王様に何て言えばいいんだよ?
商業ギルドの人たちの顔色が青くなっている。
襲撃や謁見でも顔色ひとつ変えなかった、商隊長のロイも口をパクパクさせるだけで言葉が出てこない様子。
お、俺、知らねぇ……。