作品タイトル不明
食後の散歩
混乱に陥った商業ギルドのメンバーを残し、俺たちは部屋を出た。
まだ、話し合わないといけないことが残っているんだ。
俺は、フォンとオルドと夜の庭園を歩いた。
かがり火が揺れる。
二人のうちどちらかが話し出すかと待っているが、なんとなく沈黙が続いている。
「商業ギルドも大変そうだな」
いきなり本題に入るのも何かと思い、世間話を振ってみた。
「人の思惑が絡むと複雑怪奇になるなぁ」
あまり人付き合いに関心がなさそうなオルドが、他人事のように言う。
複雑で難しいのは同じでも、魔法の方が断然いいと笑った。
「さて、と。
自分で話すか? 私から話すか?」
オルドはフォンに問いかけた。
うつむき加減で歩いていたフォンは、少しためらってから口を開いた。
「……自分で話します」
なんとなく折り返して、噴水のところまで戻ってきた。
至る所にかがり火が焚いてあるが、遠くまで行くとさすがに暗い場所が増えてくる。
「このサークレットは盗聴機能の他に、洗脳の機能も付いているらしいの」
フォンが額のサークレットに触れた。
旅の間はヘッドバインドで隠していたから、それを見て「無事に任務を終えることができた」なんて考えていた。
「洗脳?」
すごく物騒な単語だ。
精神に干渉する魔法って、禁止されてなかったっけ?
ああ、魔法については詳しくないから、わからない。
「どこまで洗脳されているのか、どこからは本来の自分なのか……わからないの」
フォンの声が震えた。
とんでもないことだよな、たぶん?
驚きすぎて、何て言っていいか……かける言葉が見つからない。下手な慰めなんかは、逆効果になりかねないし。
噴水の涼しげな水音が耳障りだ。
――それはすごく不安になるんだろうな。
現実感がなくて、どれだけ辛いことなのか理解できないのが、申し訳ないけど。
えっと、オルドがいなかったらハグするけど、そんな場合じゃないよな。
「過去の記憶は、一度線引きするといいよ」
突然、暗闇から声が聞こえて、本気でびびった!
心臓がバクバクしている。
なんだよ、もう。誰だ?
声がした方に目を遣ると、彫像の影にあるベンチにグレタ婆さんが座っていた。
「すまないね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」
婆さんがいるのに、俺たちが気がつかなかったんだ。
王城ではどこに人がいるかわからないから、気をつけないとな。
「商業ギルドの話し合いで、いたたまれなくなっちまってさ」
グレタ婆さんは眉尻を下げて、にへらっと笑った。
そりゃ、そうだろ。
商業ギルドの人たち、パニックになってたもんなぁ。
グレタ婆さんはベンチの隣を叩いて、フォンを手招きした。
「子ども時代からそのまま地続きで生きている人が多いけど、何かあって分断している人もいる。
あたしみたいにね。
だから思い出の真偽がわからないならそのままにして、現在と未来と切り離してしまいな」
フォンの頭をなでながら、少しぶっきらぼうに言った。
「婆さん、いいことを言うじゃないか」
オルドが褒めた。
「まあ、人生、なるようになるさ」
グレタ婆さんはいつもの調子を取り戻し、カラカラと笑う。
「それ、商業ギルドの人たちの前で言わない方がいいよ」
俺が脱力しながらそう言ったら、グレタ婆さんは「ふふ」と不敵に笑い、親指を立ててポーズを決めた。
「人生の試練を楽しめるようになったら、一人前さ!」
迷惑な婆さんだ。