作品タイトル不明
一日目 貴族の駆け引き(中編)
日が暮れて、エリオットは晩餐に向かった。
俺たちはあてがわれた広い部屋で、持ってきてもらった食事を前にしていた。
半数はこれをいただき、残りの人たちは携帯した食料を食べる。
普通なら温かい食事の方を喜ぶが、今日に限っては気が乗らないといった雰囲気が漂っている。
「睡眠薬か、下剤か……」
「本当に入れると思うか? 隣の領の看板を背負って来ている私たちに」
「利口な奴なら入れないだろうけど」
「まともなら、自宅に招いた状態でやらないはずだ」
兵士が大丈夫なはずだと、自分を安心させるように話を持っていく。
「入れると思いますよ」
Aランク冒険者の魔法使いがさらっと言った。
「あ、ここの出身なので。悪徳領主の黒い噂はたくさん聞いています」
「食べないで不興を買うわけにもいかない。薬を用意して、これも任務だと考えよう」
貧乏くじを引いた兵士たちは、覚悟を決めた。
俺は貧乏くじ側にいた。
「劣化した油を使ってる。火加減が下手くそ。
あ、この黄色くて目立たないハーブは口に入れない方がいいです」
黄色いハーブは便秘のときに使うものだ。
即効性はなく、なんとなくトイレが近い感じになるくらいか。
まあ、旅の途中であることを考えれば、充分な嫌がらせになる。
輪になって不味い料理を食べるうちに、奇妙な連帯感が生まれた。
「お前がいてくれて助かったぜ」
「帰ったら女房に教えてやろう」
「あ、一人だけならハーブティーで飲むといいですよ。家族全員なら料理でもいいでしょうけど」
廊下に立っていた者が扉を薄く開け、「携帯食料を隠せ」と言って扉を閉めた。
間もなくドスドスと足音が聞こえ、令嬢が現れた。
ゴテゴテのフリルとリボンで着飾った、見るからに我がままそうな少女だ。
「お前たち、ぬいぐるみをわたくしに献上なさい」
鼻息荒く、仁王立ちで命令された。
ダルグが立ち上がり、しゃがんで目線を合わせた。
「お嬢様。なぜ我々がぬいぐるみを運んでいるとお考えになったのでしょうか?」
「お父様たちがおっしゃっていたわ!」
堂々と言っているが、襲われるのを警戒して内密に運ぶということになっている。
実際は少し考えたらわかることだが、ここの領主が「内密にという意味を理解していない」と言っているに等しい。
「申し訳ありません。運んでいる物が何であれ、これは国王陛下の元にお届けし、すでにお渡しする方々も決定しているのです」
ダルグは運ぶ物の内容を濁して答えなかった。ただ、国王に命じられているということを匂わせる。
「お前、犬っころのくせに生意気ね」
「今、人気のぬいぐるみであるならば、お父上を通して国の窓口に願い出て順番待ちをなさるのがよろしいかと。
犬っころでさえわかる、正しい手続きです」
笑顔のまま、自虐的な言い方で嫌味を返した。
「わたくしは特別なのよ! 順番待ちなんて、貧乏くさいことするわけないでしょ」
令嬢が地団駄を踏んだ。
「まっとうなやり方の話をしています。貧乏とは関係ありません」
聞き分けのない子どもに、根気よく教える。
「わたくしが出せと言っているの。従いなさい。
痛い目を見せるわよ」
令嬢は連れてきた二人の護衛に、やれと命じた。
護衛は「お嬢様、勘弁してください」と抵抗したが、「クビにする」と脅している。
護衛は互いに顔を見て、「仕方ない。人質を取ろう」と相談している。
素直に差し出すと思って、無策で突撃してきたのだろうか?
部屋に入ってきた護衛の一人は、俺に目を付けた。
ああ、弱そうに見えるんだろう。悔しいが、兵士やAランク冒険者に比べたらな……。
殴ろうと拳が飛んできたので、半歩下がる。
直角に曲げた腕を下から上にあげて、相手の腕を跳ね飛ばした。
今日教わったばかりだし、護衛はラティーアよりも遅かった。
護衛がバランスを崩したところに足払いをかけ、組み伏せた。
兵士たちが縄を持ってきた。俺は場を譲り、彼らが令嬢の護衛を縛りあげた。
ふと見ると、サァラも狙われたらしい。
小柄だから簡単だと思ったんだろうが、今日のサァラは練習の成果を見せたくて、いつもより手強かったはずだ。
サァラは護衛をぎゅうぎゅうに縛り上げて、ご機嫌な様子だった。
ダルグは立ち上がり、やれやれといったように首を振った。
胸元から笛を取り出し、ピーッと一吹きする。
耳が痛くなるような鋭い音が、屋敷中に響き渡った。