作品タイトル不明
一日目 貴族の駆け引き(前編)
真昼と日の入りの中間、「昼中」の時間に休憩を取った。
少し離れた場所からエリオットの愚痴が聞こえてくる。
「行きたくなーい。
感じ悪い人に囲まれて、脂ぎったくどい料理で胃もたれするのが目に見えてるのに。
なにを企んでいるんだろうな」
トゥランが「誰が聞いているかわかりません。お控えください」とたしなめている。
手綱を持って疲れている腕を揉んでいる俺と、二人の目が交差した。
え、聞こうと思っていたわけじゃないけど……。
「夜、部屋の鍵はちゃんとかけるんだよ」
エリオットが意味深な言い方をした。
「彼らにそこまで情報収集能力があるとは思えませんが」
「油断大敵。乗っ取るつもりで頭脳プレイヤーが屋敷に入り込むことだってあるだろう。
その場合、金の卵にハニートラップをかけるのはあり得るだろう」
「……四人部屋にしておけば、それは防げるんじゃないですか」
面倒くさそうにトゥランが言う。
エリオットが笑い出した。
「なるほど。その通りだね」
なにがその通りなんだか。酒場で酔っ払いにからかわれるのに似ている。感じ悪いぞ。
なんかさぁ、ハーレムパーティーってだけで、いかがわしい想像をされてるよな。仕事中にそんなことしないって。
――昔のパーティーで俺以外がやってたから、「討伐を舐めるな」と嫌悪感が染みついているんだよ。
俺自身に超人的な体力がないっていう理由もあるけど。戦闘スキルをもっている人たちには、どうしたって敵わない。
だから、仕事中は体力温存を心がけないと……。
しばらく進んだところで、街道を横に逸れた。
エリオットが行きたくないと言っていた、この土地の領主の館に向かう。
領都の門番も感じ悪いし、城壁内の道も整備されていない。
ラティーアが手綱を代わると言ってきた。
「馬に何か仕掛けられたら、普通の手綱さばきでは対応しきれません。
背後は騎馬が警護しているので、横と上からの攻撃を警戒してください」
小さな声で説明された。
建物が密集しているところならではの対応が必要ということだな。
観察していると、隣の領なのに雰囲気が違うことに気付く。
夕方特有の活気がない。もうすぐ仕事が終わると集中している職人や、夕飯の準備の忙しない中にある幸福感――。
全体的に、疲れたような、寂れたような雰囲気がある。
「これは……物乞いやスリが多いかもしれません。
子どもが飛び出して、治療費を請求されないように注意です」
ラティーアは顔を正面に向けたまま、俺に指示を出す。
不自然なほど、こちらを見ようとしない。貴族の馬車に怯えている?
それをラティーアに小声で告げると「それなら、当たり屋は出ないかもしれませんね」と返事が返ってきた。
何事もなく領主の館まで辿り着けた。
ほーっと肩の力を抜いていると、「敵の本拠地」とラティーアに耳元で囁かれた。
目線で指示された方を見ると、エリオットが貴族の若様らしく凜々しい態度で、挨拶を交わしている。
昼間のだらけた姿とは別人だ。
一分の隙も見せないという矜持を感じ、俺も背筋を伸ばした。