作品タイトル不明
一日目 ため息の昼食
またしばらく馬車を走らせ、昼食を取るために宿場町に寄った。
昼食は二交代制で取ることになったが、俺たち花猫風月の四人は同じ回にまとめてもらえた。
初めての護衛の旅で、緊張しているだろうという配慮だ。なんてありがたい。
俺たちは同じテーブルに着いて、一斉に大きなため息を吐いた。
ルナとサァラは、ぬいぐるみが積んである荷馬車の護衛だ。
午前中はルナが荷馬車に乗り、サァラが荷馬車の周囲を警戒。午後はその逆になる。
ルナは精神的に疲れたと言う。
「ベルーフさんが奇襲を受けた時の対処を教えてくれるんだけど、えげつなくて人間不信になりそうだ」
サァラは自分の話より、俺と雪豹獣人ラティーアの話を聞きたがった。
槍術士メルティナは、エルフだけあって走るのが速いらしい――ということしかわからなかった。
運ばれてきた定食は、みんな同じ料理だった。
ここはまだトゥルメル領内なので、時間をずらして同じ物を食べてもいいと判断したらしい。
領の外に出たら、その土地の温かい料理を食べられるグループと持参した携帯食を食べるグループに分けられる。
フォンは商隊用の荷馬車担当で、重戦士のダルグと組んでいる。
「盾役との連携の仕方を教えてもらったわ。
魔法を詠唱している間の身の守り方を、もっと考えなきゃいけなかったのね」
温かいスープで、緊張がほぐれた気がする。
「俺はラティーアさんに、護衛との距離感を教えてもらった。モンスターとの戦い方とはかなり違うな」
白いパンをちぎりながら、教わったことを説明した。
「そうそう。一歩よけるとか、半歩で反撃とかにゃ」
サァラが休憩時間の練習を嬉しそうに語る。
微笑ましく思いながら、ソテーされた肉にナイフを入れた。
この後の日程では、こんなゆとりのある食事を取れるかわからない。しっかり味わおう。
「ここのテーブルは楽しそうでいいね」
カップを持ったエリオットが背後に立っていた。
トゥランがさっと椅子を持ってきて、エリオットが俺たちのテーブルに着いた。
目を丸くして眺めているうちに……なんでだ?
貴族って、こんなに平民にフレンドリーに接してこないだろう、普通。
また緊張の時間が始まったぞ。
「今夜は隣の領主のお招きを受けているから、私は晩餐に出席しないといけないんだ」
領主の孫として、領主同士のお付き合いも仕事のうちなのだろう。
エリオットは同情を引くように大げさにため息を吐き、ちらちらと女性陣を見る。
だが、三人とも「大変ですね」などと相槌を打たない。
なんて返したらいいか、わからないのだろう。俺もわからない。
「気が進まないなぁ。……君たちはその間、なにしているの?」
誘い乗らないと気づき、質問に変えてきた。
「おそらく、宿で待機かと」
ルナが代表して答えた。
「足さばきの練習とか、しているんだろうね。
腹の探り合いをしながら食べたって、美味しくないんだよ」
なんと答えればいいのだろうか。
「その間に、ぬいぐるみを強奪しようとするご令嬢がいるかもしれないから、気をつけてね」
指先でテーブルをトンと叩いてから席を立った。
それを言いに来たのか!
エリオットは次のテーブルに移り、また雑談をしている。
――ように見えるが、実際は仕事の話をしているのかもしれない。俺たちのテーブルで話したように。
親しみのある笑顔をしているが、油断ならない貴族社会で生きている人なのだ。
「あー、気を抜くなとカツを入れられたんだろうか」
ルナが少しへこんでいる。
「いえ、起きる前に注意してもらったんだもの。これを生かせばいいのよ」
フォンが自分に言い聞かせるように言った。