作品タイトル不明
一日目 ラティーアの護衛講義
俺は雪豹獣人のラティーアと、護送車の御者台に並んで座っている。
「護衛をするときは、自分が襲撃者ならどこから攻撃するかを考えるのが基本です」
ラティーアは初めて護衛任務を受けた俺に、そう教えてくれた。
「敵の立場で、ですか?」
「そう。その後、それをどう防ぐかを考えるのですよ」
「なるほど」
モンスターが得意な攻撃は調べていくけど、どう攻撃してくるかまでは考えないかもな。
「君ならどこから狙いますか?」
まるで試験を受けているようだ。
「街中ですから……細い路地や屋根から来られたら嫌ですね」
「民家の住人を縛り上げ、一般人のふりをされるのも厄介です。
護衛を本格的にやるなら、同時に逃走経路もシミュレーションできるようになるといいですよ」
この言い方だと、俺たちは戦力として数えられていないと思い知らされる。
今回は逃走経路は別の人が考えているから免除されてるってことだもんな。
いつか、まとめて一度に考えられるようになるのかな。不安が顔に出ていたかもしれない。
「護衛を本業にするならの話です。
モンスター相手とは違う、ということを知っていてくれれば充分です」
護衛はBランク以上推奨だから、俺たちCランクにはまだ無理ということがよくわかった。
へこむなぁ。いや、落ち込んでいる場合じゃない。
実力者たちの技術を一つでも多く知る機会だ。
街の出入り口の門番は領主の馬車を見て、後続の俺たちも簡単に通してくれた。
権力者と一緒に行動するのは面倒もあるけど、恩恵もあるな。
街を抜けると石畳が土の道路に代わる。
「土の道は足音が吸われるので、背後からの接近に気づきにくいのです。
一方で土煙は消せないので、土の質によって警戒の仕方を変えるといいですね」
それはモンスターにも応用できそうな知識だな。
ああ、次から次へと重要な情報が出てくる。メモを取りたいが、揺れる馬車の上でインク瓶など取り出せない。
馬車の車輪から伝わる振動は硬い感触ではなくなり、若干柔らかめになる。だが、飛び出した石やへこんだ穴があるので、気をつけないといけない。
「御者をやってみますか?」
うなずくと手綱を渡された。
「領主様のところでしっかり調教されているいい馬です。馬に任せて、周囲の警戒をしましょうか」
林や小高い丘、作業道具を入れておく小屋などを指差し、集団が隠れられる場所を教えてくれる。
収穫前の畑なども要注意だそうだ。
「今回は周囲や後方に領主軍が騎馬で目を光らせていますから、単独で護送車を走らせるときのように神経をすり減らす必要はないのですけど。
緊張しっぱなしで、依頼完了前に疲れて注意力散漫になるのもいけません。ペース配分は大事ですよ」
ラティーアは感情表現が控えめで、淡々と話す。
「それは護送対象を奪われないよう用心する、ということですか?」
「護送されているのは生き証人ですからね。黒幕はなりふり構わず、奪うか殺すかしますよ。
今のところ誰も乗っていないから静かですが、荒くれ者が乗っていたらうるさいし、そいつらが逃げるために襲ってくるかもしれないのです」
ぎょっとする内容を、平然と言う。
思わず、護送車を振り返ってしまった。――今は誰も乗っていないってわかっているのに。
「休憩場所に着いたら、怪しい者がいないかも観察しましょう。
武器に手をかけて歩く癖をつけるといいですよ」
早朝の冷たい空気がだいぶ暖まった頃に、そう言われた。
日の出と昼の間、「朝中」と呼ばれる時間に休憩を取った。
ちょうどその辺りの村に、休憩場所がある。
使用料を払って水の補給をしたり、軽食を買ったりできる。
馬の飼料も売っているが、半分の馬にそれを食べさせている。残りの半分には積み荷から。
「エサに毒や眠り薬を仕込まれても、半分のダメージですみますから」
ラティーアが、そっと教えてくれた。
そう言われて見まわすと、領主軍の人たちも軽食を食べる人と持参の者を食べる人にわかれている。
「安全と荷物の軽減の折衷案か」
本当に多くのことを考えて動いているんだな。
これは俺たちも取り入れるべき? いや、みんなで美味しいものを共有したいから難しいな。
馬の休憩も兼ねているので、少し長めの休憩時間だ。
ラティーアが俺の戦闘スタイルを見てくれると言う。
「短剣はリーチが短いから、距離をとる技術と詰める技術が必要です。
ちょっと見ていてください」
兵士に声をかけて、打ち込みをしてもらう。
「一歩下がって間合いを外す。更に体をひねると狙える面積が減る」
敬語をやめ、短く説明をしてくれる。
「もしくは横にステップし、相手の攻撃範囲からズレる。そのまま相手の側面に攻撃を加えてもいい」
協力してくれた兵士も、熱心に聞いている。
「あたいも混ぜて」
サァラがすっ飛んできた。他の兵士も自然と集まる。
休憩中でも護衛を担当している者たちが、恨めしそうにこちらをちらりと見た。
横にステップする練習で、猫獣人のサァラはかなりの跳躍を見せる。
「ああ、その脚力は素晴らしいけれど、護衛対象から離れてしまうのはいけない」
すかさず指導が入った。
「にゃにゃ、そっか」
サァラが顔を赤らめた。憧れの雪豹獣人にいいところを見せようとして、逆効果だったのだ。
「なるほど。モンスターと戦うのとは違いますね。」
モンスターなら一歩ずれるくらいでは、攻撃を避けきれない。
「そう。とどめを刺すよりも、次の攻撃ができないくらいに無力化をする。
剣士なら腕を、格闘家なら足を、魔法使いなら喉を」
「あれ? じゃあこの揃いの制服を着てるのって……」
俺は着ている制服を手のひらでなぞった。
「相手にこちらの戦い方を気取らされないためのものでもあるな」
俺とサァラは同時に、感嘆のため息を吐いた。
……なんかもう、いろいろ、すごすぎる。