作品タイトル不明
出発
「おう、すごい荷物だな」
重戦士のダルグが、俺たちを見て声をかけてくれた。
「王都滞在がどれくらいになるか、わからないので」
ルナが代表して答える。今回は冒険者ギルドに荷物の一部を預けず、全てを持ってきている。
いわゆる全財産だ。
「ああ、俺たちもランクが上がって拠点を構えるまでは、そうだったな」
先日、酒を浴びるように飲んでいたベルーフが、思い出すように言った。
「拠点は家を買うというだけじゃなく、長期で不在にする間も任せられる人が必要だからね」
「信用できる人を確保するのも重要だ。それが難しいんだけど」
Aランクパーティーの面々が、拠点を持つことについておしゃべりしだした。
結構、重要な話だと思う。覚えておこう。
「大きな荷物は商業ギルドの職員に預けるか、領主軍のマジックバッグに入れていいぞ」
騎士のトゥラン・マーロウが提案してくれた。
「商業ギルドもマジックバッグですか?」
どちらがいいか考えながら質問する。
「いや、商業ギルドは収納魔法だそうだ。あっちにいる、荷物係の女性の――」
指差された方を見ると、荷物係はグレタばあさんと何かやり取りをしていた。
荷物係の女性は朗らかに説明してくれた。
「私が魔力切れを起こさない限り、収納しておけます。死亡時は吐き出されるのか、取り出せなくなるのか不明です。
マジックバックはそのような心配はありませんが、盗まれる可能性があります。
どちらを選びますか?」
どっちも長短あるわけか……どうしよう。
俺たちは話し合って、リスクを半分にすることにした。
それぞれに、荷物を二人分ずつ預ける。片方が駄目になったら、残った方の荷物でなんとかしよう。
ちなみに、馬用の飼料はマジックバッグに入れないらしい。
運ぶのには便利だけど、すぐに食べさせたいときは出し入れが面倒ということか。
商隊長のロイが、今日の布陣を発表する。
領主軍は、エリオット様の馬車を中心に配置された。
ぬいぐるみを積んだ荷馬車は、槍術のエルフと索敵のドワーフが警護する。
旅用の荷物を積んだ商隊用の馬車は、重戦士の獣人が警護。
護送車は、元王宮護衛の雪豹獣人が手綱を取る。
Aランクパーティーの魔法使いは、自前の馬で遊軍のように動き回る。
俺は雪豹獣人のラティーアの横で参加することになった。
警護をしながら、護衛のやり方と自衛の講義を受ける。
他の三人も、それぞれAランクの冒険者からいろいろ教わる予定だ。
俺たちだけ、研修旅行みたいな感じだが、いいのかねぇ。
まあ、ギルドマスターの采配だからいいんだろうけど。
俺がラティーアに挨拶をしているのを、サァラが羨ましそうに見ていた。
憧れの豹獣人らしいが、別の日に組めるはずだからその日を待ってくれ。
護送車の御者台に並んで座った。
「トーマは御者ができるのかい?」
「小さめの荷馬車なら練習しました。こんな大きいのは経験がないです」
「では、街を出て平坦な道になったら、短時間だけ手綱を握っていいよ」
俺たちはトゥルメルの中心街を列になって進む。
騎士が先導し、領主の家紋が入った立派な馬車が現れる。
商業ギルドのしっかりした作りの馬車に、厳めしい護送車が続く。
早朝から動いている人たちは目を丸くした。
「ありゃ、何のご一行様だい?」
「さてね」
「あ、ぬいぐるみの納品じゃない? 王都に行くのよ、きっと」
「領主様がいるのはわかるけど、護送車がついてくのはおかしくねぇか」
「じゃあ、違うか」
そんなささやきが交わされていた。
多くの人々は立ち働くうちに、今朝見た馬車のことなど記憶の片隅に追いやってしまう。
一部の人間は、それを合図に動き出した。