軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

下心はいい、せめて隠せ

「まあ、でも、見ちゃうよな。谷間とか」

少々酔いが回って、ついぺろっと白状してしまった。男同士の気安さだな。

「男の性だな。胸派か尻派かはさておき、芸術品は鑑賞するものだ」

ベルーフがうまいこと抜け道を見つけた。「芸術」この一言で、裸体鑑賞も許される。

さすが年の功……どれくらい年上なんだろう。種族が違うとわからないよな。

「なら、なんでお前だけいいわけ? パーティーに加えてもらえてさ。淡泊なのか。枯れてんのか」

ノッグが絡んできた。

「違うよ。お前たちみたいに下心ギラギラさせてないから、安心できんだろ」

はは、と俺は空笑いをした。

俺も山猫亭で働いていた頃、年上のお姉様がたに狙われて怖かった。

女性といえど相手は冒険者だ。力尽くで来られたら、少年時代の俺は敵わなかった。隙を見せないように働くのは、ストレスだったよ。

「……男なら下心あるだろうよ」

ノッグがぶすっとした顔で、酒を舐めた。

俺も下心があるのは否定しない。なんなら、スケベ心もちゃんとある。だが……。

「なら、想像してみな。

職人の作ったいい物を、安く買えたら誰だって嬉しいよな。

交渉する中で、職人自ら値引きを言い出すのはいいけど、客が最初から『値引きさせてやる』って下心隠さないできたらどうよ?」

ノッグにも伝わりそうな、たとえ話を考えながらしゃべる。

「嫌な気になるし、そんな客は追い返したくなるな」

ノッグはちゃんと話を聞く気になったようだ。

「品物自体を見てくれる客と、どうやって値切ろうか下心満載でくる客って、見分けつかないか?

下心をうまく隠してくれたらいいけど、隠そうともしない客はまともに相手したくなくなるだろ」

不思議と雰囲気でわかるよな、そういうの。

「それは……なるよ。こっちを軽く見てるってことだし」

何か思い出したようで、ノッグは顔をしかめた。

「女性だって、それと同じなんじゃないか」

肉を口に入れたら、ハーブの香りが鼻に広がった。

「わからん」

ノッグは鼻に皺を寄せた。

伝わりそうで、伝わらないか。

肉を咀嚼しながら、言い方を考える。

「『あわよくば、やりたい』って下心を、隠す気があるかないかは大きいと思う。

良い関係になって値引きしてもらえたら嬉しいって人と、強引にでも値引きさせてやるって鼻息荒い人は、同列に扱えないだろ?」

ノッグがうなずくのを見て、俺は話を続ける。

「やれるかどうかだけを見てる男と、人として興味を持ってくれる男のどっちがいいかって話。

人として仲良くなって、結果的により親しくなるために自主的に体を開くのはいいけど、強引に一方的に好き勝手にやられるなんて言語道断だ。

そういう雰囲気を嗅ぎ取って、態度を変えてるんだよ。危機回避のために」

「ええ~、そうかぁ? そうなのか。ただ、イケメンならすべて許されるって話じゃねぇか?」

まあな。そういう傾向はある。

だが「顔だけイケメン」がゲスな素顔が見せたら、ギャップで評価はガタ落ちになる。注目を集める分、気を抜けないかもしれないぞ。

ただ、イケメンは傷つく回数が少なくて、素直に育つ確率が高い。ガツガツする必要がなくて、素直に要望を口にできる。

「希望」を上手く表現できず、拗らせると「下心」になるのかもな、とは思う。

ほら。やっぱり、ノッグは素直に話を聞かない。

「でも」、「だって」、「俺なんか」と反論ばかりで、面倒くさい。

「まあ、自分の意見を曲げないのも、男らしくていいんじゃないっすか。

自ら女性を遠ざけて、一生を仕事に捧げるのも美学だと思いますよ」

雑にまとめてみた。初対面でいきなり人生相談されても、うざったいだけだ。

「ああ、本当に変わりたいなら、あのモテない仲間に相談するのはやめた方がいいですよ。

モテない者同士で愚痴を言い合ってると、女性に嫌われる行動を『理解しないあいつらが悪い』っていう結論になるだけですから。

俺の考え方は、『軟弱』とか『女に媚びて』とか『そこまでしてモテたいのか』とか、悪口言われそうでしょう?」

なんとなく敬語でアドバイスをしてしまった。

ノッグが気まずそうな顔をしている。図星なんだろうな。もしかして、今、まさにそう思ってたりして?

「変わりたいと努力してもいいし、変わらないで今まで通りのやり方でいってもいいんです。お好きにどうぞ。

まあ、変わらないなら、俺は親しくなりたいと思わないですけど」

ほんと、それだけなんだよ。

山猫亭で働いているときに、モテない人たちが寄り集まって「女性」に対して愚痴を言っていた。ガキだった俺でも「だからモテないんだよ」と思ってしまう内容で……。

誰かが反省して意見を変えようとすると、「男らしくない」「ガツンと教えてやらなきゃ」と「仲間」であり続けるように足を引っ張っていた。

だから、変わるのが大変なのもわかるんだ。今まで気持ちよく愚痴を言い合っていた人たちと、心の距離ができるわけだし。

「いや、真面目に何が悪かったのか、教えてほしくて。次は失敗しないようにしないと……」

ノッグが真剣な顔で俺を見る。

ベルーフが、「そろそろ嫁さんほしいもんな」とからかった。

本気で変わる気があるんだったら……。

俺はジョッキを置いて、ちゃんと考えた。

「接する機会が少ないから、緊張するってのもあると思う。

街の清掃ボランティアとかに、参加したらどうかな。やらなきゃいけないことが目の前にあるから、色恋を一旦脇に置いて、協力しあうだろう?

その中でいい感じの距離感が掴めるんじゃないか?」

「ああ、働き者が見つかるかもしれんしな」

ベルーフも後押しをした。

「ああ、そうか。やってみるよ」

ノッグが笑った。いい笑顔だ。

「お前を誘って良かったよ」

ベルーフは満足そうに酒を飲んだ。

「もうベルーフさんの誘いに、無条件でうなずくことはないですよ。だまし討ちみたいにされて。

それも俺の自由ですよね」

なんで親しくもない奴の相談に乗らなきゃいけないんだ。飲みながら頭を使うとか、全然リラックスできないじゃないか。

「Aランクの実力者に誘われて、どきどきしたのにさ」

酒で思考力が落ちて、ちょっと文句を言ってしまう。

「お、おう。すまんな」

ベルーフは戸惑ったように、謝った。

「文句を言われてるんだが、可愛いな、こいつ。こういうところが、モテるのか」

ベルーフが苦笑いし、ノッグも同意する。

いや、可愛いとか言われても嬉しくないぞ。